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お互いなにも言わないまま、ただうるさく響く足音。

しばらくすると見えてきた住宅街の入口で

あっけなくAちゃんと別れると

途端に込み上げてくる何かが胸の奥を熱くさせた。

同時に頭の中を駆け巡るのは

Aちゃんと過ごした日々──

転校して、初めて話したのはAちゃんだった。

俺に対して冷たいと思っていたAちゃんが

初めて見せてくれた笑顔は、きっと一生忘れない。

あの雨の日、傘を差さずに登校したのは半分わざと。

Aちゃんの隣の席の子が欠席だったのは

予想外だったけど、教科書が濡れて使えなくなれば

Aちゃんに見せてもらえると思ったから。

合唱祭の指揮者枠。

Aちゃんが伴奏者だと知って反射的に挙げた手。

しなくてもよかった練習。放課後の二人の時間。

思い浮かんでくるのは、Aちゃんの笑顔ばかり。

俺といた時間、Aちゃんは幸せだっただろうか。

たくさん一緒に過ごしてきたけど

結局ずっと＂平野くん＂呼びだったな。

俺もジンのこと笑えねえな。

そんなことを考えているうちに

振り切ろうとしていた想いが溢れ出してきて

最後にもう一度、 Aちゃんの姿を見たくなった。

あと一目だけ、後ろ姿でもいい。

歩いてきた道を戻って辺りを見回すと

ふと目に入ったのは小さな公園。

吸い寄せられるように近づいていけば

目に映ったのは重なる二つのシルエット。

間違いなくそこにいたAちゃんは

さっきの関西弁の彼の、腕の中だった。

この短い間に、二人の間で

どんな言葉が交わされたのかはわからない。

だけど、そんなことはもうどうでもよかった。

それを見た瞬間に俺の中で踏ん切りがついた。

彼ならきっとAちゃんを悲しませることもなく

ずっと傍でAちゃんを幸せにしてくれるだろう。

もう俺の場所は、なくなったんだ。

その姿に静かに背を向けて

ポケットから携帯を取り出す。

数日前の着信履歴からその番号をタップすると

耳音で鳴り出した呼出音を聞きながら

生温い空気を断ち切るように、大きく息を吐いた。

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