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花火が始まるまで、まだ時間があった。

屋台を回ろうと賑わう人波の中を

Aちゃんを挟んで三人並んで歩いていく。

イカ焼きを食べて、りんご飴を買って

かき氷でどれだけ舌の色が変わるか選手権をしたり

Aちゃんがくじ引きで

何に使うかわからないうんち君当てたり

俺の中で優勝は、金魚すくいは激下手なくせに

ヨーヨーすくいは無駄に上手いジン。

本当の優勝は

それを見てめちゃくちゃ笑うAちゃん。

楽しい時間が過ぎていくのはあっという間だった。

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神「俺トイレ行ってくるわ」

ある程度屋台を回ったあと

いつものように無駄に爽やかにそう言い残して

小走りで駆けて行ったジンを

Aちゃんと二人で待つ。

ジンが取ったヨーヨーを

隣でぶらぶらさせているAちゃんは

小さな子供みたいだ。

陽は落ちてきたものの

まだ少し明るさの残る夏の夜の中で

右手に持つ食べかけのりんご飴の深紅が

透明に覆われてキラキラと輝く。

なかなか減らないそれを一口齧ると

口の中に甘酸っぱい味が広がった。

ジンはあとどれくらいで戻ってくるだろう。

『……このまま二人で抜け出しちゃう？』

思わず口に出てしまった言葉は、半分冗談。

半分、本気。

Aちゃんが笑っていてくれれば

それだけでいいなんて

自分をごまかすための綺麗事だってことくらい

心のどこかではわかってる。

本当は傍にいたくて

大切だと思える人の特別になりたくて

もっと近くで見ていたいし守ってあげたい。

それでも彼女にこれ以上踏み込めないのは

いつか失ってしまうことが怖いから。

自分を繕って逃げているだけ。

どっちつかずのままAちゃんの近くにいる俺は

ずるくて、臆病で、卑怯だ。

そんな俺には、天も答えを与えてくれない。

俺を見上げるAちゃんが口を開くより前に

胸を打つような破裂音と共に

頭上の空一面が光に包まれた。

『お～始まったね～！』

色とりどりの淡い光が作り出した大きな花が

次々と咲いて一瞬で空の中に消えていく。

儚くも眩いその光は

隣で空を見上げるその横顔と重なってみえた。

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