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花火大会の日

何も言えずに見送った背中を思い出す。

「なんでそんな急に……

いつから？いつまで？学校は？」

動揺を隠せずパニック状態の私とは裏腹に

落ち着いた様子の神宮寺が

私を諭すように言葉を続けた。

『学校はとりあえず休学するって。

期間はわからない。ただ……』

「ただ？」

『向こうに行くのは、今日の夕方だって』

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思えば、彼はいつも突然だった。

高校2年で転校してきて

──平野紫耀です。よろしくお願いします。

初日に私を下の名前で呼んで

──Aちゃんってさ、俺のこと嫌い？

あのとき勢いよく手を挙げたのも

──じゃあ俺指揮者やる！

あのときだって

──俺の好きな人、Aちゃん

何度も驚かされて

だけどその度に、彼への想いは募っていった。

平野くんの中に

私はちゃんと存在していたんだろうか。

いつのまに、そんな大きな決断をして

何も言わずに遠くへ行ってしまうなんて。

私は、彼の想いがずっと自分に向いていると

思い込んでいただけなのかもしれない。

人の気持ちなんて

いつ、どこで、どう変わってもおかしくないのに。

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『行きなよ』

不意に向けられた神宮寺の言葉に、戸惑う。

平野くんが私に教えてくれなかったのは

彼にとって私が特別でもなんでもないからだ。

「でも…」

『このままでいいの？』

神宮寺の少し力強い口調と視線が

胸に奥に重く響いて、深く刺さった。

このままでいいわけない。

私は平野くんに、何も伝えていない。

返事をする代わりに首を大きく横に振ると

神宮寺が優しく微笑んだ。

『あ、そうだ。これ』

そう言って差し出されたものを受け取ると

それはハガキの半分ほどのサイズの写真。

花火大会の日、神宮寺に突然向けられたカメラに

平野くんと二人並んで撮ったときのものだった。

現像までして渡してくれるのが神宮寺らしい。

「ありがとう」

それを財布の中に大事にしまってから

一度大きく深呼吸をして立ち上がる。

「行ってくる」

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あの日

平野くんに奪われたと思っていた

窓際の後ろの私の特等席は

気づけばどうでもよくなっていた。

だってそんなものなくたって

かっこよくて、ちょっと抜けてて、優しくて

いつも眩しい笑顔を向けてくれる

大好きな平野くんの隣が

私の特等席だから。

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