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#memory.36 ページ36

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『少し休憩しよっか』

しばらく花火をみたあと

私に気を遣ってくれた平野くんと

屋台から少し離れた場所にある

河川敷の石段まで歩いた。

『ここで大丈夫？』

あたりまえのようにスっと差し出された手に

自分の手を遠慮がちに重ねてゆっくりと腰を下ろす。

『俺、なんか飲み物買ってくるね』

そう言って微笑んだ

薄暗くなった空の下を歩いていく平野くんの

大きな背中を見送りながら

この短い時間の中での幸せを噛み締める。

彼の優しさをたくさん感じて

大好きな笑顔もたくさんみれて

なんだかんだ神宮寺には感謝しないと。

金魚すくいはド下手なくせに

ヨーヨーすくいはなぜかプロ並みだった

神宮寺が取ってくれたヨーヨーを片手に

少し遠くを流れていく人波を眺めながら

平野くんを待っていると

不意に、暗い影が目の前を覆った。

見上げると、知らない男の人が二人。

平野くんと似たような服を身に纏っているのに

そこから感じられるものは、まるで別物だった。

「ねぇ、キミ一人？」

男の一人が顔を覗き込むようにして腰を屈めてくる。

「人を、待ってるので…」

なるべく男と目を合わせないように

平野くんが歩いていった方向を

キョロキョロと見渡してみたけど

その姿は見当たらなかった。

「人待ち？彼氏？」

その言葉に一瞬、動揺する。

平野くんは……

「彼氏じゃ…ないです」

嘘でも、彼氏と言っておけばよかっただろうか。

「違うの？ならいいじゃん」

警戒心が薄らいだのか

男がまた一歩、私に近づいた。

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