ハッシュタグ (ページ32)

今日:6 hit、昨日:23 hit、合計:326,855 hit

#memory.32 ページ32

.

『ちょっと待って！

なんでいつのまにそんなことになってんの！？』

黒ベースに深紅の花を咲かせた浴衣を身に着けながら

これから向かう花火大会に「誰と行くのか」と

訊いてきた海人に正直に答えると

小さい子供のようにごねはじめた。

『俺、ねーちゃんと一緒に行こうと思ってたのに～』

「なんで高校生にもなって

わざわざ弟と花火見に行かなきゃなんないのよ。

友達と行けばいいでしょ」

こういうときこそ過保護っぷりを発揮してくる海人は

きっと今回も

＂浴衣姿の姉ちゃんを野放しにする訳にはいかない＂

なんて思っているんだろう。

『みんな予定あったり

彼女いるやつばっかなんだもん。

一人で寂しく家にいるなんてヤダよ～』

見た目はどんどん男らしくなってきているのに

中身はずっと

＂寂しがり屋のかわいい弟＂なのは変わらない。

だからといって

私もいつまでも構っていられない。

適当にあしらっていると

しばらく考え込む素振りをみせていた海人が

なにか思いついたように、あ！っと叫んだ。

『れん兄なら暇かな？』

海人の口から出たその名前に

自分でもなぜかわからないけれど過剰に反応する。

「なんで廉なの。暇なわけないでしょ」

今日は、廉に会いたくない。

なぜだかそう思った。

『彼女はいないし

部活は終わってるだろうから大丈夫でしょ！』

廉が友達と行くかもしれない

という考えはないらしく

目をキラキラと輝かせている海人を横目に

待ち合わせの時間が迫っていた私は

玄関に置いてある鏡で最後に全身をチェックしたあと

よしっ！と気合いを入れて

軽い足取りで家をあとにした。

.