温もり ページ9
眠くて疎かになった心の留め具から本音がまろびれた。普段なら絶対にしない失敗である。でも眠いせいなのか、それがどんな異常であってはならない失敗であるかを正しく認識出来なくて、私はただ青年を見つめ続ける。
……青年は、きっとあの日の可哀想な私で。それなら助けてあげなきゃって、そんな事を考えた。
｢………｣
彼は何も言わない。端正な顔立ちは深く考え込むように口が結ばれていて沈黙が続く。私はだんだん目を開ける事も億劫になって、トロンと瞼が落ちた。
｢………、良いですよ｣
布団が持ち上げられて冷えた空気が流れ込む。それで青年が私の隣に並んだ事を理解して隣を見やれば、冷たいグリーンアイが私を映す。深海のように底が見えない彼の瞳を、私はただ美しく感じた。
｢……さわっていい？｣
｢条件を守ろうとする程の理性はあるんですね。……お好きに｣
お許しが出たと思った私は、無遠慮に彼に手を伸ばす。彼の頭の下に自分の腕を敷いてぎゅっと引き寄せた。胸に彼の顔を埋めて後頭部を抑えれば、過去の私はその暖かみに酷く安堵したのだ。
……それで、私はどうしてもらったっけ。そうだ、頭を撫でてもらったんだ。髪が流れる方向に包み込むように柔らかく、優しく。それからおデコにキスされて、
『愛してるよ』
＿＿＿＿＿うそつき。
本当に私を愛しているなら。私の、私があるべき居場所から、無力な私を追い出したりなんかしなかったはずだから。
青年は案外抵抗はしなかった。全てされるがままになって、身動きひとつしない。彼がどういう表情をしているのかも確かめられなくて、頭を撫でていた手を止めた。今日で最初で最後の仕事かな。これは確実にリピ無しだ。……ふふ、美容系YouTuberの評論の言葉みたい。
それも当たらずしも遠からずなのかも知れない。彼は消費者で私は消耗品だ。己の益にならない物を買い続ける意味なんてないから。
『暖かいね、A』
ああうるさい黙ってよ。頭では分かっていても、未だに思い出して忘れられないのが嫌だ。金以外を考えるのが嫌だ。
それでも安心してしまう己がパブロフの犬みたいで嫌だ。
もし、彼が。もしも私の腕の中で眠ってくれたら。私は過去の自分を救ってあげられた事にならないかな。
………すぅ。
耳に聞こえる寝息が、自分のかそうじゃないのか。それさえも微睡みに溶けて分からなかった。
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利き手(プロフ) - 仕事の休憩中に見つけて帰るまでに一気に読み切ってしまいました...きっとこれがmcやgkが出てくる物語じゃなくても大好きになっていたと思います。最初から最後まで美しくて、どこか神秘的で読んでいてすごく引き込まれる作品でした。完結おめでとうございました。 (12月29日 16時) (
レス) @page49 id: fbcc91bb13 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 素敵な作品を読ませて頂きました…最後までどこか品があって、それでいて読んでいて面白くて、展開が気になる素晴らしい話でした…本当に読めて良かったです (9月19日 2時) (レス) @page49 id: e4e98c4f7d (このIDを非表示/違反報告)
YURIKA(プロフ) - 完結おめでとうございます！最初から最後までマジェmcの素晴らしさが詰まってて、楽しく読ませて頂きました。素敵な作品をありがとうございました！🥰 (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 2ef72ec18a (このIDを非表示/違反報告)
パントマイム(プロフ) - 完結おめでとうございます！ 連載当初からこっそりと追わせていただきましたが、本当に最高でした！ 終始どうなるかとドキドキしっぱなしで、無事最後は3人にとって幸せな結末に辿り着いたようで本当に良かったです！ 素敵な作品をありがとうございました💗 (2023年1月23日 21時) (レス) @page49 id: 664cb7fff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 霰さん» ありがとうございましす😭マジェknmcの魅力をもっと繊細にかけるように頑張ります！ (2022年12月25日 19時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぴた
| 作成日時：2022年11月2日 20時
