よだかの星 ページ42
「貴方は、僕が死ねと言えば死ぬんですか?」
数秒後考えて、頷いた。元々諦めた命と剣持さん、天秤はどちらに傾くかなんて猿でも分かる事だった。
「……貴方は、僕がそんな見返りの為にここまで動いたと思ってるんですか」
剣持さんの声は震えていた。私はその理由が分からなくて、ぼぅと彼を見つめ、彼の言葉を待つ。私が彼の為にしてやれる事が何一つ思い付かなくて、情けなかった。無力な自分を変えたつもりでいたのに、私は変われないまま大人になっていた。
「……そんなの、僕だって知りたい。僕が貴方に何を望んでいるかなんて」
剣持さんはキ、と私を睨んだ。けど、そこに悪意は感じない。
「貴方がいなくて、残された痕跡を辿って何日も何時間も貴方を探し続けて。逃げたって思えばそれで終わりだったのに、僕は……僕は、貴方を探してようやく、見つけて、」
剣持さんの手は私の首筋に触れた。動脈をなぞってその振動を確認するみたいにそこばかり指が往復する。
「……貴方が生きていて、僕はこんなに安心している」
剣持さんはそこまで言って黙った。唇を噛んで、痛そうだなって他人事のように思う。目の前の出来事全てに、現実味を感じられなかった。剣持さんが私の生を喜んでいるだなんてそんな、都合のいい事。
「………貴方はどうですか。僕に助けられて、なにを思ってるんですか。一度でも良いから、Aさんのありのままの心を僕に見せてくださいよ。怖かったでも、どうでもいいでも何でもいい、全部受け止めますから」
心を見せる、私はその部分を反復して必死に噛み砕く。ありのままの私に何の価値があるのだろう。
剣持さんはずっと、私の言葉を待っていた。
「……剣持さんってそういう事、言う人でしたっけ」
「貴方が知らないだけです」
「………そっか、」
それもそうか。私たちは互いの事を何も知らない。知らないのに彼は私を助けに来た。それだけで、はち切れそうなほど痛む心臓に舌打ちをする。
………ああ、心の中で独りごつ。もうダメだと思った。もう、誤魔化しきれない。
私は、よだかに成ったのだ。
この世から愛とか恋とか、そんな言葉が無くなってしまえばいいのに。もしそうだったらこの気持ちは全部純粋無垢で綺麗だと認められて、肯定出来て。剣持さんへ抱くこの気持ちを、素直に慈しんで、大切にできるのに。
どんな語彙を並べようとただ変わらないのは。私は、剣持さんが好きな事だけだった。
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利き手(プロフ) - 仕事の休憩中に見つけて帰るまでに一気に読み切ってしまいました...きっとこれがmcやgkが出てくる物語じゃなくても大好きになっていたと思います。最初から最後まで美しくて、どこか神秘的で読んでいてすごく引き込まれる作品でした。完結おめでとうございました。 (12月29日 16時) (レス) @page49 id: fbcc91bb13 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 素敵な作品を読ませて頂きました…最後までどこか品があって、それでいて読んでいて面白くて、展開が気になる素晴らしい話でした…本当に読めて良かったです (9月19日 2時) (レス) @page49 id: e4e98c4f7d (このIDを非表示/違反報告)
YURIKA(プロフ) - 完結おめでとうございます!最初から最後までマジェmcの素晴らしさが詰まってて、楽しく読ませて頂きました。素敵な作品をありがとうございました!🥰 (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 2ef72ec18a (このIDを非表示/違反報告)
パントマイム(プロフ) - 完結おめでとうございます! 連載当初からこっそりと追わせていただきましたが、本当に最高でした! 終始どうなるかとドキドキしっぱなしで、無事最後は3人にとって幸せな結末に辿り着いたようで本当に良かったです! 素敵な作品をありがとうございました💗 (2023年1月23日 21時) (レス) @page49 id: 664cb7fff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 霰さん» ありがとうございましす😭マジェknmcの魅力をもっと繊細にかけるように頑張ります! (2022年12月25日 19時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴた | 作成日時:2022年11月2日 20時