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緊急事態 ページ37

「……それ、」


声どころか指先まで震えていた。


「はい?」
「不味く、ないの?」
「ちょっと焦げたくらいで不味くなるワケないでしょう」


剣持さんが呆れたように息を吐く。


「でも真っ黒だよ?」
「片面が、でしょう。それだけで食べたくないだなんて贅沢ですよ。食材に謝って下さい」
「…………それ、だけ」


私が恐れるそれは、彼にとってはそれだけの事に分類らしい。………どうしよう、心臓が痛くて上手く言葉が紡げない。


「もしかして、今まで残してきたかと言いませんよね」
「残すっていうか、出されたことなかったから……」
「………随分高貴な家庭で育ったんですね」


高貴……あれは高貴というより自己顕示欲の塊だった。己の一族以外を庶民と見下し、衣食住全てが一等品で無ければ気が済まず、それを当たり前の顔をして子どもに教えこんだ。一種の洗脳だったろう。それでも私がアイツらの見下す庶民として生きていけるのは、一重にガク君と、アイツのおかげだった。


アイツも、化けの皮が剥がれればあの一族と同じであったのだけれど。


「別に無理に食べろとは言いませんよ。食べなかった所で死ぬ事もありませんし。……ただ、これの美味さを知らずに生きていくのは勿体ないと思っただけです」
「美味しいの?」
「僕は結構好きです。香ばしいですし……食べてみます?」


コクんと首だけで返事をすれば、彼は自分の皿にのった肉を私の皿に寄越した。恐る恐る箸でつまむ。それをジロジロ観察してから、パクリ!口に入れるのは迷わなかった。


「どうです?」
「…………美味しい」
「でしょう!」


彼が、得意気な表情で笑った。






____バクン!!!!!!






「こういうのも悪くない、でしょう?」


私はろくに返事も出来ずに頷いて肉をほうばるだけだった。何か話さなきゃと思うほど心臓が疼いて息が詰まる。お腹だっていっぱいなのに、彼がくれる物全てが欲しかった。


「ふふ、そんなに慌てなくても取りませんよ」


剣持さんの笑う顔がやけに優しく輝いて見えて、私は唖然とする。さっきから目がおかしい。まるで色眼鏡をつけているみたいだ。




『恋も愛も、避けて通れるものじゃないんだぜ』




どうしてかあの時のガク君の声が鮮明に耳に反響して、私は剣持さんから目を離せないまま、途方に暮れてしまった。

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作品ジャンル:恋愛
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利き手(プロフ) - 仕事の休憩中に見つけて帰るまでに一気に読み切ってしまいました...きっとこれがmcやgkが出てくる物語じゃなくても大好きになっていたと思います。最初から最後まで美しくて、どこか神秘的で読んでいてすごく引き込まれる作品でした。完結おめでとうございました。 (12月29日 16時) (レス) @page49 id: fbcc91bb13 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 素敵な作品を読ませて頂きました…最後までどこか品があって、それでいて読んでいて面白くて、展開が気になる素晴らしい話でした…本当に読めて良かったです (9月19日 2時) (レス) @page49 id: e4e98c4f7d (このIDを非表示/違反報告)
YURIKA(プロフ) - 完結おめでとうございます!最初から最後までマジェmcの素晴らしさが詰まってて、楽しく読ませて頂きました。素敵な作品をありがとうございました!🥰 (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 2ef72ec18a (このIDを非表示/違反報告)
パントマイム(プロフ) - 完結おめでとうございます! 連載当初からこっそりと追わせていただきましたが、本当に最高でした! 終始どうなるかとドキドキしっぱなしで、無事最後は3人にとって幸せな結末に辿り着いたようで本当に良かったです! 素敵な作品をありがとうございました💗 (2023年1月23日 21時) (レス) @page49 id: 664cb7fff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 霰さん» ありがとうございましす😭マジェknmcの魅力をもっと繊細にかけるように頑張ります! (2022年12月25日 19時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴた | 作成日時:2022年11月2日 20時

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