不首尾 ページ23
｢ガク君？｣
青年は目を丸めた。しまった、早とちりだった。……そっか、そうだ。考えてみれば私とガク君は友だちでも何でもないし、わざわざガク君が会話に出すほどの関係に、私は到達すらしていない。彼にとっての私は道端で拾った犬猫みたいなモノなのだ。
｢……ごめん、なんでもない。うん、好きだよ紅茶｣
失敗に失敗が重なる。ジリジリと追い詰められるようなこの感覚に汗が吹き出た。幸い剣持さんはさして気にした様子もなくて、それに救われる。
｢よく飲んでましたよね｣
｢そうかな。……剣持さん紅茶淹れるの上手だね。美味しい｣
｢近くに紅茶にうるさい男がいたもので……しこたま飲まされたおかげですかね｣
｢へぇ。素敵な人｣
温かい紅茶で身体が暖まる。今着ているふわふわのナイトウェアは剣持さんが用意した物だ。しかも結構有名なブランド物。ただ寝るだけなのにこんなに手厚い待遇を受けて良いのだろうかと不安になる。
……今の剣持さんは心無しかいつもより落ち着きがない。それに加え、普通なら私を茶に誘うのも有り得ない事に気がついた。眠気で鈍っていた頭が冴えるとこの状況の異常さに寒気がする。
｢＿＿＿ガク君と知り合いだったんですね｣
動揺が分かりやすいほど身体に出て、私は思わず動きを止める。これはただの世間話じゃない。浅く吐いた息が紅茶の湯気を揺らした。
｢別に……昔、お世話になってた時期があっただけだよ｣
剣持さんの探るような瞳が居心地悪い。話題を変えたくて、私はカップをテーブルに置いてその隣の茶菓子をつまんだ。
｢これも美味しい。どこで買ったの？｣
｢……駅前の店です。気に入ったなら全部食べても構いませんよ｣
｢そんなに食いしん坊じゃないから……｣
咄嗟に話題を変えても、頭は中々追いつかない。私とガク君の関係は果たして知り合いで終わらせて良かったのだろうか。私は、彼のそれ以上には成れなかったのだろうか。
捨てられた事実だけが私に残っているのに。まだ、未練がましくそんな事を考えてしまう。
｢……ガク君＿＿｣
｢剣持さん！｣
もう、この話、止めよう？
あ、言っちゃった。
私がどうしてガク君に捨てられたか。その理由は沢山あるだろうけど、その中でも一番大きいのはきっと、私が役立たずだからに違いなくて。
それを、君に気づかれるのがこんなにも恐ろしかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1080人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
利き手(プロフ) - 仕事の休憩中に見つけて帰るまでに一気に読み切ってしまいました...きっとこれがmcやgkが出てくる物語じゃなくても大好きになっていたと思います。最初から最後まで美しくて、どこか神秘的で読んでいてすごく引き込まれる作品でした。完結おめでとうございました。 (12月29日 16時) (
レス) @page49 id: fbcc91bb13 (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - 素敵な作品を読ませて頂きました…最後までどこか品があって、それでいて読んでいて面白くて、展開が気になる素晴らしい話でした…本当に読めて良かったです (9月19日 2時) (レス) @page49 id: e4e98c4f7d (このIDを非表示/違反報告)
YURIKA(プロフ) - 完結おめでとうございます！最初から最後までマジェmcの素晴らしさが詰まってて、楽しく読ませて頂きました。素敵な作品をありがとうございました！🥰 (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 2ef72ec18a (このIDを非表示/違反報告)
パントマイム(プロフ) - 完結おめでとうございます！ 連載当初からこっそりと追わせていただきましたが、本当に最高でした！ 終始どうなるかとドキドキしっぱなしで、無事最後は3人にとって幸せな結末に辿り着いたようで本当に良かったです！ 素敵な作品をありがとうございました💗 (2023年1月23日 21時) (レス) @page49 id: 664cb7fff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぴた(プロフ) - 霰さん» ありがとうございましす😭マジェknmcの魅力をもっと繊細にかけるように頑張ります！ (2022年12月25日 19時) (レス) id: 2515d01abe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぴた
| 作成日時：2022年11月2日 20時
