金と愛は紙一重【knmc】

掛け合い ページ14

『俺と楽しい事しない？』


＿＿私は、あの男を生涯決して忘れないだろう。








｢高校生の頃、ある人に出会って。色んな事を教えてもらってね……気づいたら家飛び出してたや。だから……んー、一年の終わりくらいかな。こうやって稼げるって知ってから実際に始めるまで、そんなに時間はかからなかったから｣


手持ち無沙汰になった右手で彼の頭を撫でる。


｢こんなの教えたの剣持さんが初めてだよ｣
｢……僕にそういう言葉は不要と言ったはずです｣
｢これは本当。…他のはそう思えばいいけどね｣


濁った夜に染まった彼を、元の明るい世界に戻す方法は有るのだろうか。……無理か。アハハ、馬鹿でしょ私。


……でも剣持さんは、きっと明るい世界でも綺麗なんだろうな。


｢＿＿＿剣持さんは、綺麗だね｣
｢ハ？｣


ポンと言葉が飛び出た。彼を寝かせるつもりが、先に理性が溶けて眠くなったのは私の方である。布団という安全地帯に自分以外の熱と心音が存在する事に慣れてしまって、馬鹿な私はその体温がまるで己の同族であるかのように思ってしまう。


｢綺麗だから、きっと色んな人が剣持さんを利用しようと集まってくる。その中には多分信じられないくらい馬鹿な人間も沢山いるだろうけど。……でもあんまり、あからさまな馬鹿にした態度はとらない方がいいよ。馬鹿は馬鹿なりの知恵とプライドがあって、それを舐めてたら痛い目みるから。だから……気をつけてね、剣持さん｣


彼の後頭部をぎゅっと引き寄せた。彼を抱いて眠るのは心地よい、最近気づいた事である。




｢私、剣持さんのお金沢山持ってるとこ好きだよ｣




これは彼に言うようで自身に向けた言葉だったのかもしれない。溶け残った理性が総動員して、私の心にストッパーをかけていた。金の切れ目が縁の切れ目、私はそんな世界でしか生きられないと強く思い知るため。


………なのに。






｢………僕も、貴方の腕の中は悪くないと思いますよ｣





そう律儀に返してくるもんだから、私は参ってしまうのだ。


この意識と眠りの間で揺れ動く時間だけは、私たちは何者でもない己自身で、言葉を交わしあっているような気分になる。


｢給料分はしっかり働いてくださいね｣


その言葉に、酷く安堵したのを覚えている。

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