金と愛は紙一重【knmc】

金 ページ1

金とは、この世の何よりも信頼できる味方である。


｢良かったよ、お金そこに置いてるからね｣
｢ありがとー！嬉しい♡｣
｢ハハ、また連絡するからね｣


伸びてきた腕をヒラリと躱して机に置かれた金を掴む。一、二、………うん、金額ピッタリ。リップサービスとして頬にキスをすれば避けられた事も忘れた男は上機嫌に私にキスを返した。おえ、お前からは触んな。


受け取ったお金を財布に入れれば、今日の仕事は終了である。計算し尽くした愛想笑いで男に別れを告げて一足先にホテルを後にした。後をつけられないように背後を確認しながら、ホテル街の路地裏を歩いて真っ直ぐ家へ帰る………つもりだったんだけど。


｢大丈夫？キミ｣


捨て犬ならぬ捨て人？お世辞でも綺麗とは言えない路地裏の壁にもたれて眠る青年を発見。身なりは整っているし衣類は全て上等そうな物、見る限り何も欠けていない所を見るとヤクザとか喧嘩に巻き込まれたワケではなさそうだ。捨てられて項垂れてるっていうより休憩中の方がおそらく正解に近い。………こんな安心安全から最も離れた場所で。馬鹿なのかな。


｢おーい、危ないよ？｣


結構大きな声を出したと思ったのだけれど、起きる気配は一切ない。それか無視されているか。残念ながら道徳心をあまり持ち合わせていない私は……あまりに起きない青年に悪戯心がムクリと膨れ上がってしまった。


｢………可愛い顔してんじゃん｣


こんな所で無防備に寝る時点で何されても文句を言えないのがこの無法地帯の暗黙の了解である。勝手に前髪を上げて、耳にかけてみる。ついでに今日のカモから貰ったオーダーメイド(らしい)ヘアピンを付ける。……うーんイケメン。


綺麗なものを見ると気分が良い。頭を撫でてみると、なんの詰まりもなく頭蓋骨の形に沿って手は滑った。イケメンは髪までイケメンらしく、うねりの一つもないサラサラヘアーである。


｢………………ん？……ｱｯ｣


身体が尻もちをつく勢いで退いた。何の配慮もしていなかった声は蚊が鳴くかの如く小さくなり、背中から冷や汗が吹き出る。………この人日本刀持ってんだけど！？！？紛うことなきその筋の人である。



…………逃げよう。




ガタガタ震える足で駆け出した。付けたヘアピンも忘れ脱兎の如く走る、走る、走る。










いやはや、この時の私は。まさかこの青年が私の人生をぐっちゃぐちゃねじ曲げるなど、思いもしなかったのである。

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