生きた証 ページ36
_________羊なんて、いないじゃないか。
率直にそう思った僕は、頭がおかしいのかもしれない。
羊が手紙を届けるなんてあり得ない話だし
そもそも羊なんて、この部屋に入れるはずもないだろ。
僕は一つ溜息をついて、何となく君の鞄に触れた。
この中から、色んなものが出てきたんだっけな。
飴だの、チョコだの、君は色んなものを忍び込ませて。
こんなちっぽけな鞄の中に、色んな幸せを詰め込んで。
もっと君を、器用に愛せたらよかった。
もっと君を、笑わせてあげられたらよかった。
もっと君と、生きたかった。
夢じゃなく、現実で
君に会いたかった。
ザラザラとした鞄の感触に
僕は君との短い日々を思い出して
嘘みたいに 涙が溢れた。
「……ん？」
だけど、そのザラザラの中に
僕は違和感を見つけた。
少しだけ震えを帯びる手を、その鞄の中に差し込むと
固くて、冷たい何かが手に触れた。
__________それは、一冊の日記帳だった。
こんなもの、君は持っていただろうか。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、その日記帳を鞄の外に出して見つめた。
「2021.2.12〜」
その表紙に、目を疑った。
そこに書かれている日付は、紛れもなく
今年の日付だった。
それもたった、4ヶ月前のことだ。
4ヶ月前に、君は生きていたというのか。
そんな訳がない。だって君は、一昨年の8月
僕の目の前で旅立っただろう。
僕は理解ができないまま、
恐る恐るそのノートの表紙をめくった。
そこに書かれている内容に、僕はまた
夢を見ているのかと思った。
「2021.2.12 私は今日、余命半年と宣告されました。どうやら難しい病気だそうです。」
綺麗な紺色の字が、そこに
君が生きていた証を示していた。
「2021.3.12 もうすぐ高校生になります。だけど、今日はとにかく体がだるい。薬のせいかな。高校生に、なれるかな。」
ページをめくるごとに、明らかに崩れていくその文字は
君が必死にその命を生き抜こうとしていた事実をはっきりと表していた。
病気で体が痛んだんだろう。
手に力が、入らなかったんだろう。
それでも君は、両親のいない闘病生活の中で
必死に生きた証を残そうと。
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ｶﾄﾗｵ - はじめまして！！もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (
レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました！今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます！ (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン！(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます！ (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ！ (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2019年8月12日 21時
