夏の晴れやかな朝に ページ26
それと比例するように
僕がずっと握っている君の手の温度は
僕が大好きなその温もりは
どんどんと小さくなっていく。
僕より一回りも小さなその手が、また温度を取り戻すように
僕はぎゅっと力を込めてそれを握った。
こんなことは無意味だと分かっているのに
僕はそうせざるを得なかった。
「…怖いよ。私やっぱり、死にたくないよ。」
「うん。…大丈夫だよ。」
「生きたい。生きたかった。野坂くんと、もっと…。」
「大丈夫。僕がずっと、ここにいるから。大丈夫だよ。」
何も、大丈夫なわけがないのに
僕は君の頭をゆっくりと撫でながら
こんな無責任な言葉を放つことしかできなかった。
「ねぇ、好きって言って。」
「好きだよ。」
「愛してるって、言って。」
「愛してるよ。」
君の声は掠れていた。
もう君をどこかへ連れて行くことはできないし
君に何かを食べさせてやることはできないし
そばに居ること以外、何もしてやれない。
秒単位ですり減って行く残り僅かな時間の中で、
僕に何ができるかといくら考えても
精一杯に言葉を紡ぐということしか僕には思いつかなかった。
「ありがとう。」
「…うん。」
「僕は君に救われたんだ。」
「……うん。」
「君のお陰で、こんなに幸せになれた。」
…そうだな、
君のやりたがったことは大方やったけれど
一つだけできていないことがあったから
せめて最後に、それをしようか。
「ねぇ、A。」
僕の、心からの言葉だ。
どうか君に、届いてほしい。
「これから先一生、僕が君のことを幸せにするよ。」
君の手にはもう、少しも力は入っていなかったし
その目蓋も随分と長い間閉じたままだった。
ただ君の胸が僅かに浮き沈みするだけで
その動きが止まってしまわぬ内に、早く言ってしまわないとと焦る気持ちを持ちながら
僕は懇切丁寧に、君の身体を抱いて言葉を放った。
「僕と結婚しよう。」
すっかり感情で満たされてしまった僕の心の全てが震えて
この声に涙が混ざってしまったのが唯一の心残りだ。
「…うん……！」
君は世界で一番綺麗に、世界で一番幸せそうに、そう言って頷いた。
それからと言うもの
君の首はカクン、と僕の腕にその重さを預けて
「…A。」
君はもう二度と、その目を開けなかった。
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ｶﾄﾗｵ - はじめまして！！もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (
レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました！今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます！ (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン！(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます！ (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ！ (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2019年8月12日 21時
