見えない横顔 ページ4
「ちょっと、電話…。」
「まぁ、いいじゃない。彼には僕から謝っておくよ。」
背の高い彼が座るには、この階段は浅すぎるらしい。
私よりも大きく突き出した膝が、それを鮮明に物語っていた。
彼は下を向いたまま軽く首を振って、前髪をくしゃ、と握って整える。
その肌に浮き上がる汗と、軽く上下する肩から察するに、ここまで走ってやってきてくれたんだろう。
「それより今は、君と2人がいいんだ。」
電話をしていた時とは打って変わって、私を包む周りの空気が途端に緊張を含み始める。
それに、甘ったるくも爽やかなこの匂いは、息をする度にふわりと香ってきて私の肺に染みていくのだ。
それが、この場所の居心地をどんどんと悪くする何よりの原因だった。
「…どうしてそんなに、余裕なの。」
階段の上でギュ、と握り拳を握って、俯いたまま消えそうな声でそう呟く。
私だけが焦っているみたい、という稚拙な妬みは、未だ消えていなかったらしい。
「余裕？」
低くて深い、彼の声。
だけどそれは、いつにもなくどこかか細くて、その珍しさに思わずハッとした。
「余裕だと思う？」
私の目を見ないまま、彼は言った。
その言葉にとうとう我慢ができなくなって、彼のいる横を向く。
さっき彼が手を通した前髪でその目元はよく見えなかったけれど、それでもなお滲み出てくる彼の表情に、私は何も言えなかった。
「…ごめん。」
勝手に喉の奥から絞り出された単語は、たったのそれだけだ。
だけどその音に彼は振り向いて、少し俯く私の顔を覗き込む。
今度はちゃんと、笑っていた。
「だっ…から、覗き込むの禁止だってば。」
「それ、何でだっけ。」
「野坂くんは…顔が良いから。」
彼の笑顔には、何だか不思議な力がある気がする。
緊張して力んでいた体の力は徐々に抜けて、あれだけ意地を張っていた心も不本意ながらにゆるゆると解けていくようだ。
「参ったな。」
「何でよ。」
「だって君がどんな顔をしているか、知りたいんだもん。」
そう言った彼の肌が、花火の光に柔らかく照らされているのを見つけて初めてその存在を思い出した。
一瞬も見逃したくない花火は、結局ほんの一瞬しか見ていなかったことになる。
ただだからと言って花火に目線を戻すでもなく、意地悪く覗き込んでくる彼の目を一生懸命にそらして、何もない正面の空中をドギマギしながら見つめていた。
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もちまる。(プロフ) - 絵菜さん» これからどんどん、色んなことが起こってあんなことやこんなことが明らかになっていくので、是非楽しみにしていてください笑 (2020年8月18日 14時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - 水の犬。さん» ご返信遅くなってしまってすみません…！コメント、こちらにも残してくださってありがとうございます(´；ω；`)亜芽ちゃんの正体、これからどんどん明かしていきます〜！これからもお楽しみ頂ければ幸いです！ (2020年8月18日 14時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
絵菜 - ヴ!!!こ、こわい。でも気になる。ヴぅ (2020年8月13日 22時) (レス) id: bc65156607 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、コメント失礼します。亜芽ちゃん想像する限り私の好みっぽい子なんですが…亜芽ちゃんの正体？や、存在が展開にどう影響を与えるか気になります！いつも素敵なお話ありがとうございます。無理せずもちまる。さんのペースで頑張ってください！ (2020年8月8日 22時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - 絵菜さん» キュンキュンな方向に向かわせてますが不穏な空気も出してしまいました〜〜！！けどお楽しみに〜！！！ (2020年8月7日 0時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年7月15日 22時
