夏の風物詩 ページ1
「え…っと。」
反射的にその画面を開いてしまってから、何と返そうか考え始める。
両手の親指が、キーボードの上でゆらゆらと動いていた。
“一緒に花火見たいです”
そうしている内に、画面が上方向にメッセージ1つ分ズレた。
後夜祭の花火が始まるの、何時からだったっけな。
詳しくは覚えてないけれど、もう数分と経たないうちに始まってしまうということだけは、確かだ。
“ごめん、ちょっと今…”
そう打ちかけたところで、見ていた画面は突然に切り替わった。
さっきまでキーボードがあった部分には、赤と緑の丸いボタン。
そして中央には、“一星 光”の3文字。
「どっ…どうしよう。」
そう漏らしてから、数秒。
メッセージを読んでいるのに電話に出ないのは流石に悪いか、と諦めて、震える人差し指で触れたのは緑の方だ。
「あ、もしもし。A先輩？」
携帯越しに聞こえる、彼の声。
それはいつもと何ら変わりがなくて、少し安心してしまう。
「…もしもし。」
「もう、どこにいるんですか。花火始まっちゃいますよ。」
そう言った彼の声はほんの少しだけ呆れているような、怒っているかのような。だけどそれが明らかにわざとであることが分かるくらいには、明るくて笑い混じりな語調だった。
「えっと…今ちょっと、顔合わせづらい…っていうか。」
「あはは、もしかして、さっきのこと？」
______図星だ。そして、途端に優しい声音。
まるで今のこの気持ちを、全部見透かされてしまっているみたい。
「……うん。」
だからさっきはあれだけ素直になれなかった私も、何の抵抗もなく頷いてしまった。
一星くんもこういうところは、野坂くんに負けず劣らず妙に器用だよな、なんて思いながら。
「さっき野坂さんが先輩のことを探しに行くって走っていったのは、やっぱりそういうことでしたか。」
「え…野坂くんが？」
「はい。だから俺も探しに行こうかと思って、連絡したところです。」
「わ…なんかごめんね。」
どうやら私は、野坂くんのみならず彼にも手を焼かせていたらしい。
どこまでも面倒で厄介な女の子であることだ。我ながら呆れてしまう。
「で、今どこにいるんですか。俺が迎えに行きますよ。」
「えっと…さっきの舞台の、」
そこまで言いかけた所で、“ドン”という大きな音が背後で鳴った。
振り返るとその窓の向こうには、ゆっくりと藍色に溶けていく火花の集合。
それは今年初めて見る、「夏の風物詩」だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 141人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちまる。(プロフ) - 絵菜さん» これからどんどん、色んなことが起こってあんなことやこんなことが明らかになっていくので、是非楽しみにしていてください笑 (2020年8月18日 14時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - 水の犬。さん» ご返信遅くなってしまってすみません…！コメント、こちらにも残してくださってありがとうございます(´；ω；`)亜芽ちゃんの正体、これからどんどん明かしていきます〜！これからもお楽しみ頂ければ幸いです！ (2020年8月18日 14時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
絵菜 - ヴ!!!こ、こわい。でも気になる。ヴぅ (2020年8月13日 22時) (レス) id: bc65156607 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、コメント失礼します。亜芽ちゃん想像する限り私の好みっぽい子なんですが…亜芽ちゃんの正体？や、存在が展開にどう影響を与えるか気になります！いつも素敵なお話ありがとうございます。無理せずもちまる。さんのペースで頑張ってください！ (2020年8月8日 22時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - 絵菜さん» キュンキュンな方向に向かわせてますが不穏な空気も出してしまいました〜〜！！けどお楽しみに〜！！！ (2020年8月7日 0時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年7月15日 22時
