夢の後先 (ページ9)

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atosaki 9 ページ9

【kaoru】

「で、結局アイツ毎週出席してんだろ？」
「そう・・・アイドルって睡眠3時間なイメージだったんだけど、授業中もちゃんと起きてる」
「案外、超暇人なんじゃね？」

アイツのことをちょっと俺が茶化すと、いや、そんなことないみたいよ、なんて、結局は庇いはじめるA。

必修科目がどーしても1つ取れなくて卒業できなかったけど、本当は半年留年で済むのを「やりきれてないから」と通年にしただの。

最後の1年だし、履修数もたいして多くないから、授業のある時間は事務所も仕事を入れないでくれているだの。

その代わりといっちゃなんだけど、授業の無い日はなかなかのスケジュールで、急遽ロケ先から学校に直行することもあるだの。

そういう時は、教科書はおろか筆記用具も持ってないことがあるから、しょーがねーなって私が貸してあげるんだの。

そういえば、シャーペン借りパクされてんじゃん！アイドルのくせに！！

・・・いや、もう意味わかんねーよ。

「アイツさ・・・？」
「ん？」
「Aのこと、好きなんじゃね？」
「うん、大好きなんだって」

即答かよ。しかも盛大な爆弾発言が出たぞ。

これはちょっとしたスクープだな。もちろんする気は無いけど、週刊誌に売ったらどのくらいになるんだろ？なんて邪な思考が頭の中をぐるぐるし始めた時

「会いに行けるアイドル、改め、授業で会えるアイドルなんだって、私」

・・・。

もうアカン。

王子の考えることは、庶民にはさっぱり理解できないものだと悟った、大学3年の冬。

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【kento】

「おはようAちゃん」
「おはようございまーす」

・・・安定の怠そうな挨拶。

校内で1番小さい教室の前から2列目。前の席に竹刀を立て掛けたいからという理由で、ぎゅうぎゅう詰めの授業でなければ、必ず1列前は開けておきたいのだと言う。
小さい教室とはいっても30人は入るから席は選び放題なのだが、当たり前のようにAちゃんの隣に座り、教科書とルーズリーフとペンケースを机に並べる。

「今日は全部持ってるんですね」
「普段は持ってるんだよ」
「へー」
「ねえ、俺が何か忘れてくる前提、止めて」

自分がアイドルをやっているからという訳ではないが、持論としてはアイドルの素は知らないほうが幸せだと思う。アイドルとは偶像。作りこまれた理想像を楽しむモノで、アイドルもファンもそれを解っていながら夢を見るビジネスなのだから。

・・・だから、正直、この状況は想定していなかった。