atosaki 33 ページ33
【you】
「・・・こっち向いてもいいけどさ」
弛んでいた腕が、またキツくなる。
「俺、何するかわかんないよ？」
言っている意味が解らない程の子どもじゃない。
ちょっと前までは、自分に限ってそういうことは有り得ないという不思議な自信があったのだけれども。
先輩に押し倒された時、そしてキスされた時。
異性との間に100％純粋な友情を成立させるためには、同性同士とは違う距離感が必要なことが解ったから。
そして、その距離を踏み越えてしまったら、恋になるか友情を壊れるかの二択で。
どちらも嫌だったら「無かったことに」するしかないってことも。
こーちさんの言葉が、私に対する優しい警告ということも解ってる。
傷つくのは自分だということも解ってる。
そして
向きを変えたい理由は「寝にくいから」じゃない。
私がこーちさんの顔を見たいし、くっついて寝たいんだということも。
・・・何があっても後悔はしない。
「できれば、この辺までがいいんですけど」
こーちさんの腕が少しだけ弛む。
「でも、そっち向きがいいです」
・・・少しの間とタメ息の後に私の身体から腕がゆっくり外れ、おいで、という優しい声が聴こえた。
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【yugo】
・・・初手からしくじるって、こういうことを言うんだろうな。
こっちを向いたものの、恥ずかしいのかなんなのか俺の肩の辺りに埋まったままのAちゃん。
『絶対、お前のこと好きだろ』
クソ兄貴の台詞がリフレインする。
「こーちさん」
悶々として眠れないでいたら、Aちゃんの小さな声が聴こえた。
「どうした？」
「眠れないんですか？」
やっぱりあっち向きますか？なんて心配そうに俺を見る。
「眠れないよね」
「・・・」
「4年も付き合ってたら、やっぱりね」
何を言ってるんだ俺は。
「・・・私、恋人が居なくなるってことがどういうことかは解らないけど」
「？」
「大事な人が突然居なくなる気持ちは解るんです」
哀しい過去を思い出したような表情で、さっきとは逆で、ぎゅっと俺を抱きしめるAちゃん。
普段の俺なら、話を聴いてあげられたんだと思う。
でも、今の俺にはそんな余裕はなく。気がつけばAちゃんの手首をラグに縫いつけていて。
怯える顔を見下ろして、口から出てきた言葉は。
「・・・解ってくれるんだったら、眠らせてくれる？」
そのままAちゃんの口を塞ぐ。
ゴメンね。君が好きになってくれた「すとーんずのこーちさん」が、こんな最低なヤツで。
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作者名：tamami | 作成日時：2020年4月21日 10時
