悪魔で、ヒーロー (ページ22)

今日:19 hit、昨日:16 hit、合計:461 hit

悪魔　21 ページ22

緑谷side

「…歩くっ…！じゅう！はち！きん！！」

「……！？」

これから移動しようと席を立った直後──。突然後ろの席から聞こえてきた如何わしい単語に、わかり易く肩が跳ね上がった

同時にそんなあからさまな反応を示してしまった自分自身に酷く羞恥心が湧く

え……？ここって雄英だよね…？

自分と同じ思春期を迎えた相応の年頃が集っているとは言え、比較的ヒーローという職業が目前としている雄英この場で、まさかそんな単語を聞くとは思いもよらなかったぞ…。ましてや初日にっ……！

そんな疑心から、僕はひっそりと首を背後に捻る

「ッ……！」

その瞬間、目線を彷徨わせる暇もなく、僕はある一点に注目した

風が吹いているわけでもないのに靡く漆黒の髪

そこから覗く瞳は虚ろではあるものの、まるで宝石でも嵌め込んでいるかのような赤い瞳

正しく絵に描いたような美貌

長身で、制服の更に中から着用している黒のパーカーが、彼の漆黒という印象を膨張させている

首元の第一ボタンを開け、ネクタイは首に掛けるだけという明らかに意味を成していない着用だけれど、しかしそれすらも彼を彩る要素としか成り得ないみたいだった

声をあげたクラスメイトへと首を傾けるその虚ろな横顔に、僕は思わず白旗をあげてしまう。

うっわぁ～… 凄い破壊力……

すると見つめ過ぎていたのか、間も無く彼と目が合った

どこかで見たことあった気がした
目も、首も、全身が余すところなく硬直してしまっていた

すると、彼はフッと笑った
パズルのピースが嵌ったように、綺麗な思い出が蘇った

ああああああ思い出したっ！！あの時の！！

「儚い人っ…！？」

いてもたってもいられないあまりの衝撃に、心中では収まり切らず、不本意にも絞り出したかのような、しかしそれなりに盛った声量で叫んでしまう

「え？」

まだ教室に残っていたクラス全員分の視線が突き刺さったことが、当の彼を凝視したままでも十分にわかった

不躾にも彼を指してしまった指先から、徐々に身体が小刻みに振動する

「すっ…すみませんっ……！しゅみませんっ…！」と、弱腰に掠れた声で何度も必死に頭を下げた

呂律が回ってなかった

「…おい、お前らいつまで教室に留まっているつもりだ。時間は既に押している。さっさと移動しろ。」

羞恥、驚愕、戸惑い。……そして喜び

どうにかなりそうなところを、様子を見に戻って来たらしい相澤先生のその忠告によって、一旦丸々全てが先送りとされた