おいで、俺んとこ。【永瀬廉】

#38 やんちゃっ子の早とちり ページ38

「え、廉の話？」


さぁ、彼にバトンタッチを済ませたら、私は空気のようにフェードアウト。

自分の存在を消すのは得意な方だ。


「おん。あんな、2人ともひとまず落ち着いて聞いて。実は…おれとこの子」


「え！付き合ってんの！？」


______グン。

“かいとくん”の一声で、私の消えかけた存在が鮮明にそこへ浮かび上がる。

ギョッとしたけど、それよりギョッとしたのは永瀬くんの表情だ。


「おい、落ち着いて聞けって言うたやろ。あんま調子乗んな」


「あごめん」


本当にほんとーに嫌そうな眉間のシワと冷ややかな眼が、やんちゃな彼を黙らせた。

こんな心底嫌そうな顔するんだ、と思えば、その表情はまた一瞬で消えていく。


「んで…おれとこの子、おんなじマンション住んでて。しかもお隣さんやったのよ」


「っえ〜〜！まじ？」


即座にオーバー気味なリアクションをする“しょうくん”は、目をまん丸に見開いている。

一方でさっきのやんちゃっ子は、“え、え？”と言いながら上空を見つめて、人差し指で何やら事態を整理している様子。


「おとなりって…隣の部屋、ってこと？」


からの、当たり前を当たり前に言い換えるように、ポツリ。驚き方まで独特なんだ、この子。


「おん。そんでこれ、挨拶と一緒にって持ってきてくれてたんやって。けどおれ、ずっとここにおったやんか。そんで受け取れんくて。な？」


「……うん」


「そのまま時間経って今日になって、もう早く食べんと悪くなってまうってなって。んじゃーみんなで食べよかって言って、連れてきたのよ」


……非常に、流暢。かつソフトな、関西弁。
少年と青年の狭間みたいな、耳触りの優しい声。

多分この人がラジオとかやったら、私は毎週聞くんだと思う。


「えーそうだったんだ。めっちゃいい子だね、お隣さんにわざわざお菓子持ってくなんて」


「いや…それは母親が、勝手に」


「でもさ？俺たちだったら、1回ピンポンしていなかったらいいや！ってなって、自分で食べちゃうよ。ね？」


「海人甘いもん好きだし尚更ね」


「そう！大好き」


あー…ぽい。
休日にカフェに行ってパンケーキを頬張る彼も、学校帰りにケーキ屋さんに寄って自分用に3つくらい買って帰る彼も、容易に想像ができる。

…そうだ。
もしこれから美味しそうなお菓子屋さんを見つけたら、彼にも教えてあげることにしよう。

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