#16 帰り際エンカウント ページ16
「おーい。見えとる？」
ポカンと固まってから、数秒。
目の前で揺ら揺らしている手の平に、ようやく意識がハッとする。
「あ…えと」
「今から帰り？」
コク、と首を縦に振る。
その後で焦点を合わせたのは、彼のブレザーの、下から2番目のボタンだ。
「俺も帰り。あのさ」
…1人でいるなんて、珍しい。
てっきりまたあの2人を待っているんだと思ったけど、違うのかな。
「一緒に帰らん？」
「えっ」
「さっき邪魔入ったし。まだ友達になれてへん、俺的に」
…あぁ、まただ。
春風が吹く。私の髪と、心を揺らす。
「行こか」
俯いたまま必死に言葉を選ぶ私に、彼はふん、と小さく笑ってそう言った。
まだ否定も肯定もしていないのに、私の正面から、私の隣へ。
ゆっくり1歩を踏みだしたその足につられて、私も思わず前へと進む。
「なぁ、海人と何か話した？」
「あ…えっと。ツ…ンデレとか、距離感バカとか…そういう話を少し」
「え何、おれのこと？」
「あっ、いやその…けどめっちゃ優しいんだよって、言ってました」
「ふは、何やねんそれ。言っとくけど、ツンデレでも距離感バカでもないからおれ。フツーだかんね」
流れるみたいな会話。
上手く話せてる、なんて到底思わないけど。
ちゃんと会話、続いてて。なんか嬉しい。
「じゃーおれからも海人のこと言わせてもらうけど」
辺りに響く足音は、今度は2人分のローファーの音。
その響きが、妙に心地良かった。
「あいつはね、本当ほっとけないのよ。んで、とにかくイジり甲斐ある。何となく分かるやろ？」
イジり甲斐がある…のかどうかは分からないけど、この人が彼をイジってる姿は何となく想像できる。
なんか、兄弟みたい。
「はぁ…なる、ほど」
我ながら、太々しい相槌。
もっとまともな返事の仕方ができないものか。
「まぁいいヤツやけどね」
改札にICカードをピって押したら、隣でもピッ。
…一緒に帰るって、こういうことなんだな。
なんかちょっと、不思議な感じ。
「方面どっち？」
「こっちです」
改札を入って、右手の方へ。
…何も言わずに付いてくるってことは、この人もこっちなんだろう。
「最寄りは？」
「えっと…こっから4駅行ったとこの、」
「あぁ、あそこね」
ホームに上って、どちらからともなく真ん中辺りで足を止める。
“黄色い線の内側に”のアナウンスですら小さく聞こえるくらい、彼が私を引き込んでしまった世界の輪郭は強かった。
#17 手遅れネタバラシ→←#15 アイツの中の春の風__side K
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちこ(プロフ) - yimmさん» はじめまして！コメントありがとうございます。お楽しみ頂いているようで何よりです…！ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月25日 17時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - もちこさん、はじめまして☆お話楽しく読ませていただいてます。この後の展開を妄想するとなんかだかドキドキ(笑)更新頑張ってください。 (2020年10月25日 7時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - しおりさん» コメントありがとうございます。主人公可愛く書けててよかったです…！これからも是非色んな想像をしながらお楽しみいただけると嬉しいです、よろしくお願いします！！ (2020年10月23日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 欲しいスタンプ俺が買ったるって何語ですか…？永瀬さんの妹になって買って貰いたい！それからなんですか！主人公ちゃんの可愛さ！！永瀬の妹って立場利用して主人公ちゃんと付き合いたい！ (2020年10月22日 21時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けてとっても嬉しいです。ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月20日 22時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちこ | 作成日時：2020年10月13日 19時
