虹色の花束を捧げる

アガパンサス 【👑】 ページ6

ふわりと浮かび上がる記憶。
目の前にいる人の顔はぼやけていて見えない、けど
なんだか懐かしい香りがする。
　
　
「みことくんっ！おてがみあげるね！」
　
『これ、ぼくに？』
　
「うんっ！みことくんがこうこうせい？になったら
　よんでほしいな」
　
　
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　
　
じりりりり、という目覚まし時計で意識が浮上する。
目線も向けないままかちりと音を止める。
　
頭に残っているのは今見ていた夢。
あのとき受け取った手紙はどこへやってしまったのか。
　
考えていてもなにもない、と着慣れた制服に袖を通す。
もう既に高校２年生。
手紙の存在なんてすっかり忘れてしまっていたけど
　
　
『もう読んでいいんだもんなぁ...』
　
　
きっと夢に出てきたあの子は初恋の子。
家が近かったけど、親の都合で引っ越すことになった。
　
今同じことになったらきっと２人とも仕方ないね、と
笑ってそのまま別れるんだろう。
　
けれどあの時は２人とも幼稚園生。
高校生に憧れも期待も胸いっぱいあっただろう。
　
　
『みことー！ご飯出来たから降りてきなさーい！』
　
　
下から聞こえる母親の声に返事を返して
すぐに階段を駆け下る。
　
いただきます、と手を合わせてから箸を取る。
　
　
『そういえばお母さん覚えてる？
　昔住んでた隣の女の子のこと』
　
　
今日夢で見たんだけど、貰った手紙どこにやったか
覚えてないんだよね、とこぼすと
　
　
『その手紙、みことから預かってるわよ』
　
　
高校生になっても覚えてたら僕から取りに行くから
それまで預かってて！って頼まれたやつ。
　
これでしょ、と引き出しから一通の手紙が出され、
そのまま俺の手元に渡される。
　
綺麗にシールで止められた封筒を開き、
中に入っている折り畳まれた一枚の便箋を取り出す。
　
　
「こうこうせいのみことくんへ
　Aのことおぼえてるかな、おぼえてるといいな
　きっとこうこうせいのみことくんは
　いまよりもっとかっこいいんだろうな
　
　Aね、みことくんのことすき！
　いつかつたえられたらいいな
　ちえより」
　
　
『Aちゃん、そろそろ戻ってくるらしいわよ』
　
　
え、と顔をあげるとにやにやしてる母親。
　
　
『好きなんでしょ？Aちゃんのこと』
　
　
する、となぞったすき、の文字で心が暖かくなった。
　
　
　
　
　
＿＿＿＿＿花言葉＿＿＿＿＿
　
アガパンサス 恋の訪れ、ラブレター
　

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