元猿、教祖を殴るまで。【呪術廻戦】

（18）街灯と危機 ページ19

『悟さんと一緒なら絶対安全ですもんね！』






…彼女は、上げて落とすのが上手だ。



苦笑いして項垂れる。



ニッコリと笑った彼女は、走り寄ってきて、僕の腕に絡みついた。



この子、距離感ちょいちょいミスるよね、と思いつつ、



必死に平静を取り繕おうとする。



もう心臓口から出てくるんじゃないか、ってくらいに、



脈拍が早くなっていく。



いつ彼女に気付かれるかと思うと、更に脈は早くなっていった。



だが、ありがたいのは、こういう時、ヒロインは大体気付かない。



澄ました顔をしておけば、なんとかなる。



僕の腕にしがみついた彼女の髪の毛をくしゃくしゃに撫で回したら、



Aちゃんはびっくりしたようにこっちを見た。



…髪の毛を触られるの、嫌いだっただろうか。



そう、少し焦った。



…のだが。








『…悟さん、脈拍バカみたいに早いけど大丈夫？』








…違う、違うって。



大体はクールな男子側が脈拍が早くなる反面余裕を見せて、



女の子がそんなクールな彼の仕草にときめいて、



お互い悟られないように胸キュンをするはずなんだ。



…なんでバレてんだよ。



彼女が僕の手首をガシッと掴んで、二本指を当ててくる。



10秒ほど腕を持たれたまま歩いて、Aちゃんが立ち止まった。







『…本当に結構やばいですけど、動悸？』



「一応僕、ピチピチの21歳なんだけど？」



『じゃあなんでこんな早いの、もういっそ病院行きますか？』



「い、いや、良いって」



『心当たりでもあるんですか？』







…いや、はいありますなんて答えるわけに行かないだろ。



でも、無回答でも、いいえありませんでも、



彼女は僕を病院につれていきそうだ。



…どうすればいいのコレ。



人気の無い住宅街、



街灯に照らされて電柱下に立ち止まった僕は、



人生で一度も味わったことのない危機を味わっていた。

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