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見えし者と見えぬ者 ページ9

「いい夜風が吹いておる」





 ーーゲゲ郎さんに連れられ私が辿り着いた場所は、近所にある、古びた神社の前だった。


 鳥居をくぐり、先に階段を登りきっていたゲゲ郎さんの視線を辿れば、先程まで雲に隠れていた満月が、ゆっくりとその姿を顕にしていた。


 ゲゲ郎さんに釣られて(やしろ)の近くに腰を下ろした私は、ただ呆然と、雲で見え隠れする月を眺めていた。





 ーーどれ程時間が経っただろうか。


 何一つとして言葉を交わさなかったことにより生まれた静寂が、ゲゲ郎さんの声によって破られた。


 目の前にある大きな月よりも、夜風を感じることを愉しんでいるゲゲ郎さんを、その時の私はほんの少しだけ遠い存在に感じてしまった。



ーー「見えぬものを信じるというのは難しいことじゃ」


 何の前触れもなく告げられた言葉に、私の身体(からだ)はピクリと反応した。


「いくら同じ種族であっても、互いに生まれた相違点を容易く認められる者は、この世にそうそうおらん」


「ましてや実態のないものとなれば、それは当然のことじゃろう。…目で見たものが全て、それが世の(ことわり)同然となってしまった人間界で、お主はこれ見よがしに周囲とは異なった存在となってしまったのじゃ」


 まるで私の心の内の何もかもを見透かしているかのように、淡々と言葉を述べるゲゲ郎さんを、私は啞然とした顔で見つめていた。


「故にお主は本来の自分を偽り、一人孤独に生きることを選んだのじゃ」


「違うか?」


 澱みのない紅色の瞳がじっと私を見据え、問い掛けに答えるよう促してきた。




 ーーその通りだった。

 本来の自分を隠すことで、私は人間社会に適応したのだ。

 代わりに、自分自身の望む居場所を見捨てて。





『そうですね。…いえ、そうでした(・・・)


 案の定、何故言い直したのかと聞きたげなゲゲ郎さんを横目に、私はスッと立ち上がり彼の目の前まで移動すると、その手をとって両手で包み込んだ。


『でも今は、あなたがいるでしょう?』


 ーーそのままゲゲ郎さんの手をグッと引いて彼を立ち上がらせ、私は踵を返して階段を下り始めた。



『帰りましょうかゲゲ郎さん』


 ゲゲ郎さんと話ているうちに心が軽くなったからなのか、自然と和らいでいた表情でそう告げた私は、ゲゲ郎さんの気持ちなど露知らず、弾む足取りで帰路を進んでいた。

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永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» いえいえとんでもない!すごく嬉しいお言葉です!今後も気長に付き合っていただけると有り難いです! (12月9日 21時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - 永久瀬さん» ご返信ありがとうございます!こちらこそ無理なお願いで申し訳ありません!お話大好きなので今後も読み続けます! (12月9日 20時) (レス) id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» コメントありがとうございます!ご要望にお答えできず大変申し訳ないのですが、名前変更を可能にする予定は今のところ考えておりません。今後時間に余裕ができましたら、もう一度考えさせていただこうと思います。本当に申し訳ありません!! (12月9日 19時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - めちゃくちゃ好きなお話です!!これ名前変更することって可能ですか?? (12月9日 19時) (レス) @page8 id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - アミさん» ありがとうございます!更新はゆっくりになる時もあるかもしれませんが、頑張って書いていこうと思います!何卒、今後もよろしくお願いします! (12月9日 8時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:永久瀬 | 作成日時:2023年12月3日 21時

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