人間嫌いの絆し方

いつかその時は ページ23

雪も降らず如何にも冬日和といった天気の中、穏やかで少し肌寒い風のお陰で綺麗に乾いた洗濯物を取り込み、籠へと積み上げていく。

　その中に一着も彼の服がないことに些か罪悪感を覚えるが、洋服も、新しい着物も必要ないときっぱり断られてしまった私には、いらぬお節介を焼くだけになってしまうのでどうしようもない。

　裾のほつれた箇所を縫う度に、本当に新しい服は要らないのかと確認するのだが、妖怪は古い物を好む生き物だと一向に聞く耳を持たない彼に私もそろそろお手上げだ。

　縁側で寝転び、私が剥いた林檎を片手に日向ぼっこをしている彼の着物は、私が何度も繕った跡が薄っすらと残っている。

　洗濯物を畳みながらそんな彼の背中をぼうっと眺めていれば、ふと、寝返りを打った彼と視線が合わさった。

　ーーそして一言。


「元居た場所へ戻る方法が見つかった」


『…え？』


　ーー突然の告白に吃驚し、なんとか言葉を紡ごうと必死に思慮するも、返答に窮した私の口からは、結局一つたりとも言葉が出てこなかった。



「…そう聞けばお主はどう反応するか知りたかっただけじゃ」

『え、あ、じょ冗談なんですね…』

　内心ほっと胸を撫で下ろした私は、さっき驚いた拍子に落としてしまった服を拾い、再度畳み直した。


『でもなんで突然そんなことを？』

「前述の通り、ちとお主の反応が気になっただけじゃ」

『…冗談って言うのは嘘じゃないですよね？』

「そもそも探してすらおらぬのじゃ。見つかる訳なかろう」

『そうですか…。でも、一応ちゃんとした話をさせてください』

　ーその時(・・・)はいつ来てもおかしくないのだから。

『もし、本当にゲゲ郎さんが此処から去る方法を見つけたと言うのならば、何時でも出て行ってもらってかまいません』

「…寂しいとも何とも思わぬのか？」

『寂しくない、と言えば嘘になります。けど、きっと嬉しいと思う気持ちの方が勝ると思うんです。私にとってはゲゲ郎さんの幸せが何よりなので』

　そう言うと、部屋に入りこちらに近付いて来た彼は、私の手を取りその腕にそっと唇を落とした。

「そうか…。じゃがわしの幸せを願うなればその考えは違うぞ樹」


「…その時はわしと共に行くが正解じゃな」



　ーーその後、そのまま流れでと言わんばかりに樹の身体を押し倒そうと覆い被さった男の頭上に、強烈な拳骨が落とされたとかなんだとか…。

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