少しの進歩 ページ3
急いで敷いた布団の上に男を寝かしつけ、服を着替えた私は、消毒液やら包帯やらを持って男の元へと歩み寄った。
「…それ以上近づくでない。先程も言った筈じゃろう。わしは人間が嫌いじゃ」
すると、地を這うような低い声で男が牽制してきたのだ。どうやらこの妖怪は人間嫌いなのだろう。
「…そもそも、お主はわしが人間でない事をわかっておるのか？」
真上を向いていた男の眼球だけが動き、紅色の瞳がこちらをじっと見つめてきた。
『えっ、知ってますよ？何を今さらって感じなんですけど…』
あっけらかんとした声音で私はそう返した。
そりゃあ、傷だらけの重症人間を家に連れ帰る訳がないだろう。あくまでこれは相手が妖怪だからした行為なのだ。
男は驚いたように目を見開き、瞼を瞬かせていた。
「…妖怪が見えるのか」
『まぁ…。私にとってそんなに珍しい事じゃないですよ。妖怪が見えるだなんて。何なら物心がついた頃からずっと見えてましたし』
『あなたみたいな人間嫌いを見るのはなかなかレアですけどね』と笑いながら話ているうちにも、私はテキパキと男の怪我の処置を行っていた。
怪我で動けない男はされるがままだ。
『ところで、あなたのお名前は？』
「………」
せめて名前くらいはと尋ねたところ、ガン無視を喰らってしまった。
ここまで極度な人間嫌いに出会ったのは、実際初めてかもしれない。
おそらくこの男の傷が完治すれば、私は殺されるのだろう。かなり真面目な話で。
それでも呑気に包帯を巻いている自分が、自分自身でも恐ろしく感じてしまった。死への恐怖と言う私の感情は何処へ行ってしまったのだろうか。
「わしが恐ろしくはないのか」
ある程度の処置を終えたところで、男が再度口を開いた。
『確かに、全く怖くないと言えば嘘になりますけど、人間の方が妖怪よりもよっぽど恐ろしいと私は思ってるので、どちらかと言うと実感は薄いですね』
答えたその後も、男から返答が返ってくることはなく、私は立ち上がり包帯の切れ端やら消毒液やらの後始末を始めた。
「お主、わしの名を聞いておったな」
そうしていると、唐突に男が話掛けてきた。私の質問には一切答えてくれないが、一方的に声を掛けてはくるのだ。
『え？あ、はい。聞きましたよ』
「実名は教えてやらんが、“ゲゲ郎”そう呼ぶといい」
そうだけ言うと男、いやゲゲ郎さんは瞼を閉じ寝入ってしまった。
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永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» いえいえとんでもない！すごく嬉しいお言葉です！今後も気長に付き合っていただけると有り難いです！ (12月9日 21時) (
レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - 永久瀬さん» ご返信ありがとうございます！こちらこそ無理なお願いで申し訳ありません！お話大好きなので今後も読み続けます！ (12月9日 20時) (レス) id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» コメントありがとうございます！ご要望にお答えできず大変申し訳ないのですが、名前変更を可能にする予定は今のところ考えておりません。今後時間に余裕ができましたら、もう一度考えさせていただこうと思います。本当に申し訳ありません！！ (12月9日 19時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - めちゃくちゃ好きなお話です！！これ名前変更することって可能ですか？？ (12月9日 19時) (レス) @page8 id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - アミさん» ありがとうございます！更新はゆっくりになる時もあるかもしれませんが、頑張って書いていこうと思います！何卒、今後もよろしくお願いします！ (12月9日 8時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：永久瀬 | 作成日時：2023年12月3日 21時
