泣き上戸 ページ20
『ゲゲ郎さんお酒好きですか?』
「好きじゃ」
『ふっ…。あ、いや、お好きなら丁度よかったです。…実は、会社の知り合いから旅行のお土産でお酒を頂いたので、よければ飲んでください』
会社から帰宅し早々、私は唐突にお酒は好きかとゲゲ郎さんに問うたのだが、彼は戸惑うことなく好きだと即答し、その様子に私はついつい吹き出してしまっていた。
ーー「樹は飲まぬのか?」
食器棚から一つお猪口を取り出していたところ、ゲゲ郎さんにそう聞かれた。
『私は基本的に飲まないようにしてるので結構ですよ』
「そうか。じゃあわしが遠慮なく頂くぞ」
『どうぞ』
もしゲゲ郎さんが飲まなかったら、最終的には料理酒として使おうと考えていたのたが、生憎家には既に料理酒が一つあるので、彼がお酒を飲んでくれるのは正直都合が良いと私は思っていた。
ーーまさか、この後とんでもない事に巻き込まれるなど露知らず…。
『お口に合いますかね?』
「そうじゃな…。山向の烏天狗が仕込んだ酒程じゃないがの、これもなかなかの味じゃ」
『…天狗の酒ですか。名前を聞くだけでも美味しそうですね』
一口一口と嬉しそうにお酒を飲み進めていくゲゲ郎さんを眺めながら、私はそう呟いた。
ーー「…樹」
『?何ですか』
暫くの間、お酒を煽るように飲み続けていたゲゲ郎さんが不意にその動きを止め、俯いたまま私の名前を呼んだ。
「…わしは人間が大嫌いじゃ、憎んでおる…」
突然そう話し始めたゲゲ郎さんに対し、返す言葉が見つからなかった私は、ただ静かに話を聞くことに徹していた。
「…この気持ちが揺れ動くことは決してないと、わしはそう思っておった。…じゃから、お主のことを愛しいと感じるこの思いも全て、一時の気の迷いじゃと蓋をしておったんじゃ」
『っ…!』
愛しい。はっきりと聞こえたその言葉の真意を確かめる前に、私は瞬く間に長く伸びたゲゲ郎さんの髪によって喉を締め付けられていた。
ーー何故、と思いゲゲ郎さんの方を見れば、影がかかり表情の窺えない顔から、ボタボタと雫が落ちてきていた。
「…お主が人間でさえなければと、今までどれ程思うたことか」
…あぁこの人にお酒を飲ませるべきではなかった。
ーー今さら後悔しても、もう遅い。
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永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» いえいえとんでもない!すごく嬉しいお言葉です!今後も気長に付き合っていただけると有り難いです! (12月9日 21時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - 永久瀬さん» ご返信ありがとうございます!こちらこそ無理なお願いで申し訳ありません!お話大好きなので今後も読み続けます! (12月9日 20時) (レス) id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» コメントありがとうございます!ご要望にお答えできず大変申し訳ないのですが、名前変更を可能にする予定は今のところ考えておりません。今後時間に余裕ができましたら、もう一度考えさせていただこうと思います。本当に申し訳ありません!! (12月9日 19時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - めちゃくちゃ好きなお話です!!これ名前変更することって可能ですか?? (12月9日 19時) (レス) @page8 id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - アミさん» ありがとうございます!更新はゆっくりになる時もあるかもしれませんが、頑張って書いていこうと思います!何卒、今後もよろしくお願いします! (12月9日 8時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:永久瀬 | 作成日時:2023年12月3日 21時