人間嫌いの絆し方

互いの気づき ページ19

『あ、ゲゲ郎さん。お話終わったんですね』

　お店からゲゲ郎さんが出てきたのを見た私は、彼の元へと駆け寄りそう話しかけた。

「あぁ、ちと待たせたようじゃの」

『いえ、全然大丈夫ですよ』

　ーー心做しか、ゲゲ郎さんの表情がいつもより柔らかく見えるのは気の所為だろうか…。

「ん？樹、何をそこまで嬉しそうにしておるのじゃ」

　そう思っていると、今度は訝しげな顔をしたゲゲ郎さんが、私に問いかけてきた。

『え、あれ、なんか顔に出てました？』

　まさか自分が、他人に気づかれる程嬉しそうな表情をしていたなど露知らず、ただ物思いに耽っていた私は、不意をつくようなゲゲ郎さんの言葉に驚いていた。

ーー「お主はよう顔に出るな」

　そう言うと、ゲゲ郎さんは人差し指で私の額を小突いた。

『…私、これでも結構、社内ではポーカーフェイスって言われるんですけど…』

　ーー額を抑えながら、私は少し不貞腐れ気味にそう言う。

「ぽーかーふぇいすとはなんじゃ？」

　案の定、現代の言葉に然程詳しくないゲゲ郎さんは首を傾げていた。

『何でもないですよ、気にしないでください』

　話を誤魔化す為にも、私は適当な笑みを浮かべて帰路を辿りだした。





ーー『まぁでも、顔に出ていたのは知らなかったですけど、心の内で喜んでいたのは本当ですよ』

　帰り際、カランコロンと特徴的な下駄の音を鳴らし、私の横を歩くゲゲ郎さんを横目に、私はそう呟いた。

『あれ程人間を毛嫌いしていたゲゲ郎さんが今ではもう、顔を合わせたばかりの人と、難なく言葉を交わせるくらいになってたんですからね…。私としては嬉しかったんです』

　そのまま顔を合わせることなく歩いていると、突然、隣から聞こえていた筈の下駄の音が止んだ。

『あれ、ゲゲ郎さん？どうかしました？』

　気になって振り返ってみると、ゲゲ郎さんはただ呆然とその場に立ち尽くし、動かなくなっていた。


ーー「…わしも随分と変わってしまったようじゃな。…お主と出会い、いったい何をここまで揺れ動かされておるのじゃ」

『…えと、ゲゲ郎さん？』

　何が何だか理解できていなかった私は、ただ彼の言葉に困惑していた。

「まぁよいか…。これも案外悪うないからの」

　状況についていけない脳に追い打ちをかけるように、ゲゲ郎さんはふんわりと私の頭を混ぜた。






　ーーどうやら最近の彼は、スキンシップが多いらしい…。

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