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一縷の望み ページ18

「ふふふ、そうかそうか…。そうだよね、あの子はもう一人じゃないんだ」

 ゲゲ郎の言葉を聞いた店長は、何度も何度も自分に言い聞かせるように頷きながら、そう呟いた。

「…私はね、自分で言うとあれだけど、あの子を自分の本当の孫のように思っていたんだよ。血縁関係なんて一切なくともね。
…でも私には、あの子を笑わせてやる事すらできなかった。それがずっと心残りだったんだ。
今日、君がそれを叶えてくれるまではね」

 先程までは重くしんみりとした雰囲気を漂わせ、ゲゲ郎に語りかけていた筈の男は、今度は一変して嬉しそうにそう話していた。

「…君と一緒にいて、あの子はとても楽しそうだった。心の底から笑ってくれていた。だからどうか、これからもあの子の側にいて、仲良くしてやってほしいんだ。
ズルい言い方かもしれないけど、老い先短い私の心からの願いだよ」

 そう言うと男は座っていた椅子から立ち上がり、机の下へと椅子を押し込んだ。

「どうやら長話をしすぎたようだね。わざわざ付き合ってくれてありがとう。
樹ちゃんを待たせてるみたいだし、君は早く彼女のところへ行ってやってくれ」

「…そうじゃな。わしもそろそろお暇させてもらうとするかの」

 気がつけば店内は人で賑わっており、ゲゲ郎は颯爽と出入り口の方へと向かった。

「あ、そうそう最後に一つ」

 ゲゲ郎が店のドアを開けようとしたところで、再度店長に呼び止められ、今度は耳だけを傾け話を聞いていた。

「ご存知だと思うけどね、人付き合いの少ないあの子には、誰かから向けられる感情に疎い一面があるから、しぶとく頑張ってね」

「…何の事かわしにはさっぱりわからんの」

 にこにこと満面の笑みで親指を立てる店長を見るなり、ゲゲ郎は大きな音を立ててドアを開け、カランコロンと下駄の音を鳴らして去っていった。



ーー「よかったね樹ちゃん…。彼は君のことを友達以上に大切に思ってくれているみたいだよ」


 男の呟いたその言葉は、店に訪れた人々の話し声に掻き消された。

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永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» いえいえとんでもない!すごく嬉しいお言葉です!今後も気長に付き合っていただけると有り難いです! (12月9日 21時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - 永久瀬さん» ご返信ありがとうございます!こちらこそ無理なお願いで申し訳ありません!お話大好きなので今後も読み続けます! (12月9日 20時) (レス) id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - mizuiroさん» コメントありがとうございます!ご要望にお答えできず大変申し訳ないのですが、名前変更を可能にする予定は今のところ考えておりません。今後時間に余裕ができましたら、もう一度考えさせていただこうと思います。本当に申し訳ありません!! (12月9日 19時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)
mizuiro(プロフ) - めちゃくちゃ好きなお話です!!これ名前変更することって可能ですか?? (12月9日 19時) (レス) @page8 id: 29b3887541 (このIDを非表示/違反報告)
永久瀬(プロフ) - アミさん» ありがとうございます!更新はゆっくりになる時もあるかもしれませんが、頑張って書いていこうと思います!何卒、今後もよろしくお願いします! (12月9日 8時) (レス) id: 8005ed3d7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:永久瀬 | 作成日時:2023年12月3日 21時

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