忘 ページ42
「おい」
暖かいなぁ。でも椅子は冷たいから嫌だなぁ。
「おい」
そういえば今日の記憶が全然ない。ぼーっとしてたらいつの間にか図書室にいた。
習慣って怖い。
「おい」
まずい。今日の授業の記憶がない。ただでさえ馬鹿なのに授業を聞かないなんて。
「吉岡!」
「っ、はい!」
声に驚き頬杖で支えていた顔がズルっと滑って意識が覚醒する。
「あ…」
「体調でも悪いのか?」
「えっと、」
覗き込む降谷くんの眼差しから逃れたくて俯く。
主に降谷くんの事柄で昨日の夜はあまり眠れませんでした。
私自身よくわからなくて、気づけばそのことばかり考えて授業に身が入りませんでした。
そんな馬鹿げた事実言えるわけない。
言い淀み明らかに不審な私に向ける降谷くんの視線が痛くてたまらなかった。
「…なんか、」
なんかあった?
降谷くんの紡いだ言葉とぐぅぅ〜と私の体内から轟いたなんとも間抜けなみっともない音は同時だった。
「は、?」
「あ、え、あの、ちがっ、いや、あの」
紛うことなき私の腹の音。私の体内から発せられた音。恥ずかしいなんてもんじゃない。今すぐこの場から消えてなくなりたい。
仮にそれができたとして、降谷くんの耳に間抜けな音が届いてしまったことは取り消しできない。手遅れだ。
一日中ぼーっとしてついでにお昼ご飯を疎かにしたのが原因だろう。食べた記憶が、ない。朝ごはんは…たぶん食べた。
厄日ってこういう日のことを言うんだろうな。いや、これは自業自得か。
他人事のようにどこか遠くを見つめた。
「吉岡…」
「………はい」
暫しの沈黙のち、俯く視界の端で降谷くんの体が小刻みに揺れ始めた。
「今の音…ふっ……腹減ってるの?」
降谷くんが笑っている。笑われてしまった。当たり前だ。巨人の呻き声のような音だったんだから。
せめて小動物の鳴き声のような音だったならここまで恥ずかしいとは思わなかったと思う。
「…お昼、食べ忘れちゃって」
「じゃあ今日はもう帰るか?集中できない状態で勉強しても無意味だし」
「…そう、します」
集中を欠いている原因が空腹だと降谷くんに思われてしまったかもしれない。なんて情けない。
「おでん」
「え?」
立ち上がった降谷くんを見上げた。
「コンビニの。食べたことないって言っただろ。食べてみたい」
はらりと髪を揺らして彼は柔らかい笑顔をこちらに向けた。
なぜかその瞬間私は、ああ、好きだなぁと思った。
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かものはし子(プロフ) - フライドポテトさん» 励みになるコメントをありがとうございます(*^^*) (2019年9月17日 13時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
フライドポテト(プロフ) - めちゃめちゃ好きです。ドツボです。頑張ってください!!!更新待ってます。 (2019年9月17日 2時) (レス) id: 59946ff9b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年7月23日 18時