あの夏の過ち。〈降谷零〉 (ページ41)

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そうして天使に出逢ったページ41

たまたまテストでいい点数を取ったときに母が褒めてくれた。それが嬉しくて次はもっと頑張ろうと思った。

いつからか高得点といえる点数を取っても母が低いと言ったらそれは低い点数になった。

もっと頑張らなきゃ。お母さんの喜ぶ顔が見たい、褒めてもらいたい。小学生のときに染み付いたその感覚は中学三年間で完全に板についた。

90点以下は無意味も同義。ある時89という数字を見た母が「こんな簡単なテストでいい点を取れないの？」とため息をつく姿に申し訳なくなった。

もっと頑張らなきゃ。もっといい点を取らなきゃ。すでに私の中で褒められたいなどという前向きな気持ちは消えていた。

母に呆れられないために母が納得してくれる点数を取らなきゃ。

高校受験。あなたは頭がいいんだから偏差値の高いところがいいわね。ご近所にも自慢できるわ。あなたは自慢の娘よ。

そう言って母が提案した高校は私にとって受からない確率の方が高く思えた。

それでも意向に応えるべく今まで以上の努力をした。文字通り机に齧り付く毎日。削れる時間は削って削って齧り付いた。

費やせば費やすほど地頭の限界に直面して無理だと感じたし、何より私には他に行きたい高校があった。

毎日頑張ってるわね。あなたは頭がいいもの。絶対に合格するわ。

励ましのような言葉と母の笑顔は重く、細く細く絡みついて私にはそれを払い除けることができなかった。

何を糧に私は受験勉強をし続けていたんだろう。今はもうわからない。ただ朦朧と齧り付き手を動かし続け、満身創痍で受験日を迎えた。

その日は全てが重かった。プレッシャーも空の色も足も、あなたは出来る子よという母の期待も。ずんっと重くておまけに胃もキリキリと痛くて。

ごめんなさいお母さん。たとえ万全の状態だったとしても受かる確率は０に等しいのに。ごめんなさい。きっと落ちてしまう。

重い足取りで会場に入り番号から席を探す。人がいっぱいだった。重々しい空気。お腹が痛い。入り乱れる人の塊に踏み込んだとき、トンっと軽く肩がぶつかった。

あ、ダメだ。

踏ん張りきれずあっさり重力に身を任せた。このまま倒れて意識が飛んだらいいと思った。

「っ、大丈夫ですか」

床に背中が着く寸前、誰かが咄嗟に支えてくれた。

曇天から射し込んだ光がその人を照らして逆光で顔はよく見えなかったけれど

光に当たるその人の金髪がキラキラと眩しくてそのときその瞬間この世で一番綺麗だと思った。