あの夏の過ち。〈降谷零〉 (ページ38)

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変なのページ38

夜に出歩くなら連絡してって言ったはずだ。

いつ。

わりと最初の方。

たぶん。

忘れた？

最近めっきり連絡を取らないから？

それとも俺にメールはしないで夜に外に出ることは何回もあった？

頬を駆け抜ける風が痛く冷たい。

短く吐き出される息が白くて、肺が冷たくて耳が冷たくて、たぶん鼻は赤くて。

「諸伏くん…ッ」

名前を呼ばれハッとした。

反射的に足を止め、掴んでいた腕を離す。

何もなくなった悴んだ手をゆっくりと握り込んだ。

自分のと、吉岡の、荒く短い呼吸音が風に混じって鼓膜を揺らす。

べつに、メールの件は絶対ってわけじゃないし、だから怒るとかそういう感情ではないんだけど。

ガラの悪い人たちと仲良さげに話しながら人気のないアーケード街付近で慣れたように話し込む吉岡を見て

なんか、軽い衝撃を受けたっていうか。

初めて話したときから、派手な髪色と吉岡自身にはズレた印象があって。

髪を染めた理由とか、キラキラした目でゼロの話をしているときとか。

不良とかそういうタイプでないことがわかったから、だから。

夜にガラの悪い集団と座り込んで話す吉岡は俺の知らない吉岡で。

そちら側へ行ってしまうんじゃないかと思ったらどうにもたまらなくなった。

「諸伏くん…？」

白い息とともに名前を呼ばれた。

吉岡は先程まで俺が掴んでいた部分を軽く押さえていて、申し訳ない気持ちになった。

「ごめん、いきなり…」

「あ、えっと、驚いた…けど」

俯いたり目を泳がせたり。何か言おうとして留まって、口を開いて、閉じて。

吉岡の言葉を静かに待っている間、耳障りな冷たい風の音がよく聞こえる。

「も、諸伏くんっ、あのね」

切羽詰まったような顔で何を言い出すのかと思ったら、

「私って、降谷くんのことが好き、なのかな…？」

全然予想もしてなかったことを言うから一瞬わけがわからなかったけど、

すぐに吉岡の言ったことを理解したらそれがやっぱり予想外でだんだんと笑えてきた。

「っふ、く…あっははは！」

なんだよ。変なの。なんでこんな笑えるんだ。

驚いた表情から睨むような表情に変わった吉岡がまたおかしくて、

「俺は最初からなんとなくそう思ってたよ」

笑いながらそう告げれば吉岡はまた驚いた顔をした。

ああ、よかった。いつもと変わらない吉岡だ。