あの夏の過ち。〈降谷零〉 (ページ31)

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光ページ31

そうだ。

そうだった。

降谷くんはそういう人だ。だから私は憧れたんだ。

凛として、真っ直ぐで、かっこよくて、行動力があって、それで、強くて優しい人。

そんな降谷くんだから、憧れた。

私も降谷くんみたいになりたいって。

「じゃあ…またね、降谷くん」

「…ん」

わざわざ遠回りをして。自分の帰宅時間が遅くなるのに。

道中気まずかっただろうに。気を使ってか色々な話題を振ってくれた。

私が女だったから。心配して家まで送ってくれたんだろう。

それらが申し訳なくて、謝ることしか頭になかった私に彼は、ありがとうと言えと言った。

考えてみれば、降谷くんの行動に対して謝ることは、彼の好意を否定するも同義。感謝一択。

そんなことにも気づけないなんてどれだけ自分はテンパっていたんだろう。

「気をつけてねっ…」

少しずつ遠くなって暗闇にとけていく背中にそう声をかけてから、

独り言のように小さくありがとうと呟いて家の中に入った。

「…っはぁ」

音を立てて閉まった扉を背に寄りかかると、途端身体の脱力感。

それから、心が震えるような。歓喜の感情が込み上げて。緩む口元を抑えようと唇に力を入れた。

目を瞑れば、瞼の裏に浮かぶぼやけた金色。

初めて見た降谷くんの髪色は、淡く強く、とても優しく、暖かく見えた。

キラキラ、キラキラ。霞んだ視界でそれは救いのように。ただ、綺麗だと思った。

…私、さっきまで憧れの人と二人きりだったんだ…。

その事実に落ち着いたはずの心臓が再び強く脈打ち始めた。

図書室では他にも人はいるし、何より勉強という逃げ道があるおかげでそちらに集中を向けられる。

けどさっきまではその逃げ道もなかった。だからひどく緊張して、降谷くんに気を使わせてしまった。

ああ、でもやっぱり、なんだか気分がいい。

なんだかんだ言ってもやはり私は降谷くんに少しでも近づけて嬉しいんだろう。

もしかしたら憧れの…降谷くんと友達になれるかもしれない。

「…あっはは」

そんな考えが一瞬過って、笑えた。

高揚。興奮。たぶん少しハイになってる。

そのときスマホが通知音を鳴らした。

"最近会わないねー"

届いたメッセージを見て、自然と体が動いた。

今なら何でもできるような気がする感覚が私のハイな状態を物語っている。

玄関を出て、足早に目的地へ。

顔と、袖から出た手と、脚が、少し冷たい秋風を感じた。

きっともうすぐ冬が来る。