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安田side
朝早く俺の前に現れた彼女は、別れて欲しいと言った。
真剣な顔だった。
今までの彼女の心境から、なぜこの言葉が生まれたのか。
俺はそればかり考えていた。
錦｢章ちゃん、なんかあったん？｣
｢りょぉ｣
携帯を握ったまま、楽屋のソファで項垂れていた俺の隣に腰掛けて、亮は心配そうに聞いてきた。
｢今朝な、早くにAが家に来てん｣
錦｢なんや、惚気？｣
｢別れて欲しいて言われてん…｣
錦｢………｣
｢上手くいってるつもりやったのに…。上手く行っててん、一昨日までは。
やのに今日になってなんで…｣
俺が何かしたんやったら、Aがあんな苦しそうな顔するはずないねん。
思ってることを上手く表現出来へん彼女の心の中を、俺はきっと誰よりも汲み取れるから。
やけど今朝のAはちゃうかった。
俺も読めへん顔してた。
錦｢…あいつの中の闇っていうか、過去ってさ、まぁ、幸せな思い出やないやん。
誰かになんか言われたんと違う？｣
｢俺もそう思って聞いてみたけど、別れて欲しいの一点張りで、ちゃんと話も出来へん感じやった。
なんか、思い詰めとるとは違うけど…
俺の知っとるAやなかった｣
錦｢直人は？あいつならなんか知っとるんやない？｣
｢…そうか！｣
彼女の、先輩であり、親友であり、時に父親で、時に恋人でもある直人の存在を、俺は今の今まで思い付きもせんかった。
握りしめていた携帯の画面を見つめて、LINEをしようかと思ったけど、返事を待つほどの忍耐力はないな、と思った俺は通話のボタンをタップした。
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作者名：史帆 | 作成日時：2019年6月6日 22時
