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彼の家から出社することは、よくある。
今日も、いつもとは違う電車に乗って、いつもとは違う道を歩く。
会社について、自分のデスクに座ると、ボンッと置かれた大量の資料の山。
先｢朝から幸せそうな顔しやがって。バツとしてこれまとめておけよ｣
｢先輩、仕事に私情挟んだらダメですよ｣
先｢そのニヤニヤの口なんとかしてから言うてや｣
捨て台詞を吐いた先輩の口も、ニヤついてる。
ヤスくんと付き合うことになってから、先輩はこうして様子を見るようになった。
以前と比べると、一緒に飲みに行く回数も、お昼を外で食べることも減っていて、
だけどそれは先輩の優しさだって、ヤスくんが言っていた。
わたしはとうとう先輩離れ出来たようで、少し誇らしかった。
わたしはパソコンの電源を入れて、一番上に積まれた資料をひとつ手にして、Excelを起動させる。
昼休憩になっても終わりの見えない作業に、椅子に座ったままぐーっと伸びをしたわたしの手が、誰かに当たった。
｢あ、ごめんなさい｣
慌てて振り返ると、眉を下げた先輩。
先｢今日中じゃなくてもええで、それ｣
｢ムカつくから今日中にやります｣
先｢なんやそれ笑｣
笑いながら、寂しそうな顔をする先輩に、わたしはなんと言っていいかわからなかった。
先輩はときどきこういう顔をするから、わたしはずっとどうしていいかわからなかった。
その辺の鈍感女とは違うから、なんとなくその理由には気が付いていたけれど、それを口にする勇気も、確かめる方法もわからなかった。
もし思っていることを口にしたとしても、先輩はきっと誤魔化すだろう。
本当のことは言わないだろう、きっと。
言われたところで、わたしだってどう言っていいかわからないから。
無理すんなよ、って肩に手を置いた先輩はそのまま自分のデスクに向かっていった。
わたしはその先輩の背中をぼんやり見ていた。
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作者名：史帆 | 作成日時：2019年6月6日 22時
