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しばらくして、バーに訪れたのは錦戸さんが連絡を取っていた人だった。
カランカランと、喫茶店みたいな扉の音に振り向くと、その人と目が合って、気まづそうに逸らした。
錦｢おぉ、章ちゃん、待っとったで〜｣
呑気な錦戸さんの声に、おずおずと近くまで来て、ヤスくんはわたしとは反対の、錦戸さんの隣に座った。
安｢なんで亮がAちゃんと飲んでんねん｣
錦｢たまたまここで会うただけや｣
ほんで、たまたま話し聞いただけや
って最後のひと口を飲み干した。
ヤスくんはそれ以上なにも喋らなかった。
彼がここに来た理由を、わたしは何となく感じ取っていた。
錦戸さんがここに呼び出したのは、わたしに足りない勇気を後押しするため。
今までも、あの時も、足りなかった勇気。
今、こんなに近くにいる愛しい人に、自分の気持ちを、ちゃんと伝える勇気。
｢ヤスくん…話があるんだけど…｣
思い切って声を出したけれど、やっぱり顔は見れなくて、俯いたまま、震えそうになる声を必死に抑えた。
錦｢ほんなら俺、そろそろ帰るわ。｣
席を立った錦戸さんは、わたしの耳元に顔を寄せると｢ラストチャンスやで｣と呟いて機嫌よく帰って行った。
わたしとヤスくんの間には席一つ分空いていて、その空間を寂しく思った。
彼に触れて欲しい
彼に触れたい
近くにいきたい
そう思う気持ちを自覚しながらも実行することは諦めて、まずは気持ちを伝えなきゃ、と気付かれないように深呼吸した。
安｢なに？話って｣
ヤスくんはこっちを見ることなく、マスターに出されたハイボールをグラスの半分まで一気に飲んだ。
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作者名：史帆 | 作成日時：2019年6月6日 22時
