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｢そこでわたし、怖気付いちゃったんだよね。
真相を確かめる覚悟も勇気もなくて、そのまま、終わりにしちゃったの｣
やっぱりわたしには無理だって思った、
今も、思ってる。
錦｢まぁ…怖いよな。確かめんの｣
｢………｣
錦｢やけどさ…｣
カラになったグラスを置いて、錦戸さんはこっちを見上げて、顔を覗き込むようにして、目線を合わせる。
錦｢好きやって思ったもんとか、欲しいって思ったもんとか、そういうの、全部みんな同じ覚悟してんとちゃう？｣
錦｢思った時点で、それもう覚悟してんのやないかな｣
｢……｣
合わせた目線を元に戻して、彼はマスターに同じものを注文した。
錦｢やからお前も、ちゃんと出来とるよ、覚悟｣
｢…………｣
何も言えなかった。
優しく諭すように話す声は、とても落ち着くそれだった。
｢錦戸さんと話してると、ヤスくん思い出して嫌｣
ありがとうって思うのに、出てくるのは可愛げのない言葉だけだった。
錦戸さんはわたしの頭をさらりと撫でる。
錦｢恋愛って何かを犠牲にしなきゃいけないもんかもしらんけど、それは自分の気持ちとはちゃう。
そこだけは、犠牲にしたらあかん。｣
錦｢お前に足らんかったのは勇気だけや。｣
背中を、トントン、優しく、２回目叩く。
その手の温もりが暖かくて、優しくて、涙が零れた。
錦戸さんは徐ろに携帯を弄りだして、誰かに連絡を取っているようだった。
わたしはカラになったグラスをマスターに返して、同じものを注文した。
まだ飲むんかと言いたそうな錦戸さんの視線を無視して、新しいグラスに入ったウーロンハイを煽った。
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作者名：史帆 | 作成日時：2019年6月6日 22時
