愛しい仔猫の話 (赤井秀一・長編)

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それから、赤井とAは定期の健康チェックを重ねながらセーフハウスで共に暮らしていた。
フラッシュバックに苦しむ夜もあるが、そんな夜に赤井はソファに並んで明るい物語の映画を観せたり、気を引くような可愛らしい菓子を食べさせたり、歌を歌ってみたりもした。
Aの鈴を転がすような笑い声が可愛らしく愛おしくて、彼女を苦しめる過去をとても憎く感じていた。

Aは施設で命じられ得た様々な知識があったので、身の回りのことはすぐに出来るようになる。
朝は起きると洗面所へ向かい、赤井の用意したパドルブラシで髪と耳の毛並みを整え、お湯で顔を洗い、歯磨きをする。保湿のローションをぱたぱたとつけ、日焼け止めとリップクリームを塗る。着替えを済ませると赤井の元へ戻る。

「今日はどれにしようか？」
「んー、みどり」
「了解」

Aは背中を向けてしっぽを赤井の前へゆらゆらとさせる。赤井は手元の箱の中からAの選んだ色のリボンと鈴のチャームを取り出し、可愛らしく蝶々に結ぶ。

「ありがとう」
「どういたしまして」

るんるんと尻尾を振る姿に赤井は目を細める。

Aは特に料理には興味を持ち、本を参考にしながら食事の支度にも加わるようになった。
エプロンの紐を後ろ手に結び、背がまだ届かないキッチンに足台を使い立つ。赤井が用意した子供用の調理器具を上手に使い、食材を下拵えする。火を1人で扱うのはまだ危ないと言う赤井との約束で、1人の時は電気自動調理器を使ってカレーやシチューなどの煮込み料理やサラダを作っていた。朝はサンドイッチやピザトースト、一緒に用意できる日は赤井がパンケーキやフレンチトーストを焼いた。

「おいしそうだねぇ」
「Aがフルーツを切ってくれたから彩りが良くなったな」
「ふふ、なんかおしゃれな朝ごはんになったね」

ふかふかのパンケーキに果物を盛り付け、温めたミルク、コーヒーと共に食卓へ並べる。
向かい合わせに席につき、手を合わせる。

「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」

穏やかに朝食が始まった。

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