01 一歩。 ページ35
＊
やたら目につくその赤みを見つけて
先を越された、なんて
臆病な自分を責めて。
_____一歩。
リ「、、A、昨日なにしとったん」
劇場の自販機前に座り込み、
必死に床にこべりつくガムを擦り続けてるAは
見下ろす俺からの疑問を浴びて、キョトンと顔を上げる。
「ん？けんしろさんと飲んでた」
リ「、、ふーん」
「なんやねん」
リ「いや別に」
「なんじゃこいつ」と悪態をつきながらも、
必死にヘラを床に擦り合わせる。
盛「うわ、びびったー。何してんのお前」
「黙れ！！」
盛「え、当たり強っ。こわー」
「誰やねん！こんなとこにガム吐いたやつ！」
コーヒーを買いに来たもりしに、八つ当たり。
「ガムとゴムはちゃんと処理せえって張り紙貼るぞ！」
盛「マンゲキの品位に関わるからやめたげて」
怒りながらも仕事をこなすA。
だいぶスタッフとしても慣れてきとる。
盛「うわ、お前えぐ」
「なんやねん、触んな！」
ヘラの動きにシンクロして揺れるポニーテールを、
もりしがそっと横にずらす。
盛「またビッチ姉さんしてんのかお前は」
「、、はあ？！」
盛「こんなとこにつけてもろて、まあ」
「えっ、、？」
指でうなじを押され、その瞬間に本気で驚いた顔。
そして、さっきの会話を思い出したのか
チラッとこちらを見てくる目。
、、これはもう確定やん。
リ「、、はあ」
盛「お、珍しい。リリーが呆れてるやん」
「なんで呆れられなあかんねん」
リ「今のは自分に対するため息や」
盛「はあ？」
ヒラヒラと片手を振り、その場を去る。
「なんやあいつ意味わからん」っていう相方の声。
"自分に対するため息"っていうのはほんま。
一番近くにいたのに、
なかなか本気の一歩が踏み出せんくて。
軽い言葉と軽い誘いを、相も変わらず乱打して。
何も変えれてない関係に、あぐらをかいて。
リ「、、先越されとるやん」
自嘲を込めた言葉を漏らしてしまう。
リ「はあー、、東京やからって油断しとった」
小声で呟く本音は、若手の爆音の出囃子に消される。
今まで何度も、俺以外と身体を重ねてるのは知ってた。
いい気がしたわけじゃない。
けど別によかった。
そこに気持ちはないから。
リ「本気の人とヤ ってるんは、きついわ、、」
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作者名：よいちょちょちょ丸。 | 作成日時：2022年2月24日 10時
