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劇場での通称は『チビロリばばあ』『ビッチ姉さん』『見た目の無駄遣いさん』などなど、
喜ぶような呼ばれ方ではないこの女。
酒、煙草、男遊び、ギャンブル。
芸人という大義名分をフルに活かし、トークに昇華させる。
見た目の華やかさとは打って変わった中身。
四六時中下品な下ネタを好んで発し、
自分の顔と体が武器なのをよくわかってる上で容赦なく脱ぎ、
唇と心を奪われた芸人は数知れない。
でも本気にした若手同期先輩たちの体の誘いには一切のらず、
「簡単にヤ れる思うな」なんて、無茶苦茶なことを言う。
「どっちやねん」と言いたくなる振る舞いに
振り回されてきた屍たちをどれくらい見てきただろう。
そんなAが弱っていた。俺の胸で泣いた。
毎日毎日顔を見に来て、
少しずつ元気を取り戻す姿をそばで見てきた。
『居て当たり前の厄災』が居なくなった劇場で、
一体何人が自分の気持ちを自覚したのか。
一体何人が存在の大きさを痛感したのか。
…今更そんなぽっと出の気持ちなんか、許さんけどな。
盛「ほんでなんでお前はもう飲んでんねん」
「え、今日祝日やろ?」
盛「いやお前さっき曜日感覚ない言うてたやないか」
「毎日祝日やからな」
にしし、と笑ってコップを掲げる。
リ「もうゆず兄着くて」
届いたLINEから、主催者の到着を予告する。
「ゆず兄、昨日迷惑かけたから謝らな」
盛「俺らにも謝れや、ここまで運んでんぞ」
「すま◯こ」
盛「お前、ほんま最悪やな、、」
下品な謝罪も聞き慣れたもんで。
こんな最低な言葉でさえ、「ああ戻ってきたな」って嬉しく思えてしまうのが厄介。
俺と同じ気持ちなのか、「いややわー」と言いながらももりしもどこか嬉しそう。
俺ら、毒されとるなあ。
ゆ「なんやお前、下半身追い剥ぎにでもあったんか」
「どんなマニアックな追い剥ぎや」
ゆ「うわ、男もんやんけそれ。きっしょ!」
「キュンする?」
ゆ「せんわ!なんか履けや」
チャイムも鳴らすことなく、手慣れた様子で入ってきた兄さんは
家主の格好に怪訝そうな顔。
「あれ?稲田さんは?」
ゆ「明日朝から別の仕事やて東京戻ったわ」
「え〜イケメン不足やん」
ゆ「だからお前病院行けて」
大量の酒と食材を、我が物顔で冷蔵庫へしまう。
この家、私物化されすぎやろ。
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作者名:よいちょちょちょ丸。 | 作成日時:2022年2月24日 10時