第35話 妹みたいな君のこと ページ39
ぺけたんside*
深夜というほど遅くもないけれど、決して早い時間でもない、夜0:30。
俺はスタジオに忘れた荷物を取りに帰っていた。
夜遅いから明日でいいです、って言ったのに。
しょうがないからこんな雨の夜に出かけているわけだ。
夜の雨って悪くないな、なんて、少し気分が良くなって鼻歌を歌ってみたり。
「…あれ」
ふと、目線の先に見慣れた人物。
傘もささずに。
「なーにやってんの、A」
『…ぺけくん』
振り返った彼女はびしょびしょで。
「どうしちゃったの」
『急にね、両親が訪ねてきて。びっくりして、傘持たずに逃げてきちゃった』
よく見ると部屋着、というか。そんな格好が、彼女の焦りを物語っていた。
「なるほどね、それでこんな」
『そう。コンビニ入ろうかと思ったんだけど、こんな状態で入るのもどうかと思って』
「…本当に怖いんだね、Aの両親」
Aは誤魔化すように笑って、私の思い込みかもしれないけどね、と零した。
「このままじゃ風邪ひくよ」
『でも家に帰れないから…ちょっとだけ我慢』
「身体強くないんだから、我慢したらダメでしょ。…まあでも、無理か」
困ったねぇ、と顔を見合わせてみても、解決策は浮かばない。
「これ貸すよ、とりあえず」
ハンカチで、申し訳程度に雨を拭ってパーカーを着せてやる。
『…濡れちゃうよ』
「俺はいーの。とりあえず、雨宿りできる場所に居な?」
『うん。とりあえずコンビニに戻るね』
彼女を傘に入れてコンビニへ向かう。
「ねぇ、車椅子のひとって傘させないでしょ。どうしてるの?」
『レインコート着てる。だから今日みたいに傘に入れると、いつもと違ってちょっと嬉しいの』
子供みたいに笑ってみせる。
自分にしか分からない、小さな幸せ。
それを噛み締めている彼女がとても、可愛かった。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*
『ここまででいいよ』
「そう?じゃあ、ここまでで。風邪ひかないようにね、帰ったらちゃんとお風呂入るんだよ」
『分かってます』
申し訳なさそうに眉を下げて謝ると、これ洗って返すねとパーカーをつまんでみせた。
手を振る彼女に背中を向けて、歩き出す。
どうしても世話をやきたくなってしまうのは何故なんだろうか。
かわいい妹みたいな。
自分もちょっとだけ幸せになれた気がして、笑みが零れた。
…でも、なんか忘れてるような。
「あ、やべ。スタジオ」
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みぞれ - 頑張ってください!この作品好きですっ! (2017年3月27日 7時) (レス) id: 931096523e (このIDを非表示/違反報告)
有乃(あの)(プロフ) - 雪桜さん» ありがとうございます、とっても嬉しいです!これからも精進します! (2017年3月24日 1時) (レス) id: c4fc46a459 (このIDを非表示/違反報告)
雪桜 - ええとこれ好きです頑張ってください (2017年3月21日 21時) (レス) id: bd91b60462 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有乃(あの) | 作成日時:2017年3月5日 2時