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1──25年前 ページ2

no side





ぱたん、と薄明るい空間に音が響く。




窓際に寄りかかるようにして座っていたのは、
紛れもない駿東Aだ。




駿東は手に持っていた本を横に置くと、
退屈そうにそこへ寝転んだ。




『あー……

あめんぼあかいなあいうえお。
うきもにこえびもおよいでる。

かきのきくりのきかきくけこ。
きつつきこつこつかれけやき。』




誰に聞かせるでもなく、
北原白秋の『五十音』の詩を読み上げる駿東。

暗記しているのか、言葉はつっかえることなく
スラスラと出てきた。





『─────うえきや いどがえ おまつりだ。』





最後まで読み切った時
ガチャン、という荒々しい音が響く。




音の元はどうやら階下のようだ。
ここは離れの二階。
まるで蔵のような離れだった。





「……お嬢様、食事でございます。」


『ありがとうございます。』





駿東は起き上がり、手を前について頭を下げる。
食事を持ってきた老婆はそれを一瞥するだけで
すぐに階段を降りていった。





『いただきます。』





駿東は置かれた小さなおにぎりに手を伸ばし、
小さな口で噛み付いた。




もくもくと動かされる口は
度々、何かに反応するように止まる。




『たいへん、おいしゅうございました。
ごちそうさまでした。』




小さなおにぎりではあったが
4歳の少女にはそれなりの時間がかかる。

食べ終わった駿東は
湯のみとおにぎりが乗っていた皿を
階段と部屋を遮る柵の前に置く。

柵は「逃げ出さぬように」と
父親が設置させたものだった。





「……お嬢様、湯浴みの用意が出来ました。」


『ありがとうございます。』





いつの間にか登ってきた老婆は
空いた皿を片付けながら告げる。

それと同時にタオルと着替えの古い着物を
投げ捨てるかのように置いていく。





「……こちらの時計が鳴る前にお戻り下さい。」


『はい。』





15分後に設定された目覚まし時計を置くと
老婆は気だるそうにその場に座った。

駿東はタオルと着物を拾い上げ、
急勾配の階段をスタスタと下って行った。





『雨ニモマケズ 風ニモマケズ─────』





蔵のような離れの一階にある簡易的な風呂場からは
詩を読み上げる声が響く。


今度は宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のようだ。
この詩は先程読んでいた本に書かれていた。





駿東は体についていた泡をお湯で流すと、
自分でしっかりと水気を拭って風呂場を後にした。

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の〜さん(旧もこ)(プロフ) - 沙羅さん» ありがとうございます(´;ω;`)無理せずに頑張ってください! (4月25日 6時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - の〜さん(旧もこ)さん» ご意見ありがとうございます!一応「救済」路線で書いておりますので、余程のことがない限り……という予定です!駿東ちゃん頑張りますのでぜひ見守ってあげてください!(笑) (4月25日 1時) (レス) id: fccd246cdb (このIDを非表示/違反報告)
の〜さん(旧もこ)(プロフ) - あと誰にも氏なないでほしいです。 (4月24日 18時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
の〜さん(旧もこ)(プロフ) - 沙羅さん» コメント返してくださりありがとうございます!LOVEの件もありがとうございます! (4月20日 17時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - の〜さん(旧もこ)さん» コメントありがとうございます!逆ハー良いですよね♡なるべく多くのキャラクターを出して行けるよう頑張りたいと思います!Loveな雰囲気も出せるよう頑張ります!!更新ゆっくりになってしまっていますが、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします! (4月20日 17時) (レス) id: fccd246cdb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沙羅 | 作成日時:2021年5月5日 13時

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