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1月 ページ3

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「ここやな……」





北信介は冬の田圃を前に呟く。

今日は雪は降っておらず青空が見えていた。





「……土地神様の祠ってこれやな。」





田圃の側にポツンと置かれた祠。

北はその祠の前に座って手をあわせる。





「今年からお世話になります。
ええ米が穫れるよう、よろしゅうお願いします。」






挨拶を済ませ立ち上がる北。

冷えてきたのでそろそろ帰ろうと畦道に向かうと

その背中に声がかかった。






『お兄さん、ここの田んぼ使うん?』



「!……そやけど……」



『ここな、私のお気に入りの場所やねん。
そうかあ……お兄さんが使うねんな。』





臙脂色の着物を着た少女は

うんうん、と頷きながら祠の横に立っていた。





『あっ!お兄さん名前は?名前なんていうん?』


「北信介や。」


『ほな"信ちゃん"やな!』


「信ちゃん……まあええけど……
自分は何ていうん?」





北は少女に向き直って少し近寄る。

目線を合わせるようにしゃがんで尋ねた。





『うち?うちはAって呼ばれとったで。』


「Aか、ええ名前やな。」


『おおきに!』





ニコッと笑ったAはとても嬉しそうだった。





『せや、信ちゃん米作るんやろ?ええなあ!
うち、米は大好きやねん!
……せやから、うちも見守ったるわ。』



「見守る?」



『安心してや!イタズラはせんよ!
大人し見てるだけや。ずっと、ちゃんと見てる。』



「おお……」



『ほら、山の動物とか来たら大変やろ?
米はうまいからなあ……鳥も狙ってんねん。』



「ふふ、ほな頼むわ。
でもAは昼間に学校とかあるやろ?」



『ガッコウ……
うち、ガッコウは行ってへんよ。』



「!」





Aは不思議そうに言うも

あ、と声を漏らしてすぐに首を横に振る。





『うちな、フトーコーやねん。
なんや居ずらくてな……でも勉強は出来るよ!』



「……Aが行きたくなったら行けばええわ。」






不登校、そう言われてしまえば

行けと強要することは出来ない。






北もそう汲み取ってAの頭を撫でた。






「今日は晴れとるけど寒いんは変わらんわ。
Aもはよ家に帰りや。」


『分かった。信ちゃんも風邪ひかんでな!』






Aは田圃の側にある道路に立って手を振る。

北も軽く振り返して帰路についた。









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これが、北信介と『土地神』の出会いである。

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沙羅(プロフ) - トロピカーナブランケットツッパーナムルさん» めコメントありがとうございます!!そう言って頂けて本当に嬉しいです!!読んで頂きありがとうございました!!! (2021年7月4日 0時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
トロピカーナブランケットツッパーナムル - いやこの作新ガチ好き (2021年7月3日 17時) (レス) id: 99e5f8b903 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - でこりんまんさん» コメントありがとうございます!来て貰えて本当に嬉しいです…!!切ない、でも幸せなお話が書きたかったのでそう言って貰えて私も感涙です……!!!読んで頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 12時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
でこりんまん(プロフ) - 幼なじみは個性的から飛んできました……!凄く素敵なお話でうるうるしながらよませていただきました……!! (2020年10月26日 8時) (レス) id: 5f3c679f42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沙羅 | 作成日時:2020年10月25日 19時

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