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ひゃくさん ページ11

no side



坂口「お二人共、太宰君に甘いんです。

太宰君の台詞の三つに二つくらいは
金槌で後頭部を叩いて突っ込むくらいでないと
収拾がつかなくなりますよ。

ご覧なさい、バー全体がツッコミ不在の
亜空間と化している。
マスターなんて細かく震えています」



坂口安吾。

丸眼鏡に背広を着たマフィアの専属情報員。



太宰「やあ安吾!
暫く見なかったけど、元気そうじゃあないか」

太宰が笑顔で手を掲げる。



坂口「元気なものですか。
東京出張からたった今帰ってきたばかりなんです。
古新聞みたいにくたくたです」

貴女『古新聞……』



Aの脳内では

色の褪せた新聞と安吾が並んでいた。



太宰「いいなァ出張。私も遊びに行きたい。
マスター、蟹缶おかわり」

坂口「遊び?マフィア全員が貴方のように
暇潰しで生きている訳ではないのですよ太宰君。
勿論仕事です」

太宰「私に云わせればね安吾」



新しく来た蟹缶の身を指でつまみながら云う。



太宰「この世に存在する凡てのものは
タヒぬまでの間の暇潰し道具だよ。
それで、仕事って何の?」



安吾は少し空中に視線を迷わせてから答えた。



坂口「魚釣りです」

太宰「へえ、それはご苦労様。釣果は?」

坂口「ゼロ。まるで無駄足でした。
欧州の一級品と聞いて足を運んだのですが、
どれも町内会の手芸教室もかくやの我楽多ばかり」



『魚釣り』とは隠語で

密輸商品の買い付けを意味する。




坂口「ただ、悪くない骨董時計が一つありました。
中世後期の時計職人の作品です。
贋作でしょうが、この出来なら買い手はある」



安吾は鞄から紙包みに覆われた筺をわずかに見せた。

その上に、煙草や携帯雨傘などが載っている。



太宰「……取引は何時に終わったの?」

貴女『私も同じ事を聞こうと思ってた』



太宰は荷物を見ながら訊ね、

Aは笑いながら頷いていた。



坂口「夜の八時です。
遊ぶ間もなくとんぼ返りですよ」


安吾は苦笑してから付け足した。


坂口「まあ、給料分は働きました。
これで僕も頸を切られずに済みそうだ」




太宰「ずいぶんと弱気だね、
『マフィアの凡てを識る男』坂口安吾とも
あろうものが」

貴女『楽しそうな立場なのにぃ』



太宰はにこやかに云う。

Aも楽しそうな声を上げた。



坂口「歴代最年少幹部や幹部補佐に較べれば、
僕の業績など学生の履歴書も同然ですよ」



そう云ってから

安吾は、ところで、と切り出した。

ひゃくよん→←ひゃくに



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作者名:沙羅 | 作成日時:2019年5月13日 15時

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