花香る場所で訪れるもの (ページ21)

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「あれ、ちゃか！？」

ちゃか、って確か宮近さんのあだ名だっけ

なんて考えていると、
隣に座っていた宮近さんが振り返った

「…え、松倉」

心なしか、なぜか私を隠すように
宮近さんが立ち上がり私の前に回り込む

「何してんの、こんなとこで
あ、俺がおすすめしたから？」

マスクをしてても分かるくらいニヤニヤとしながら
私にペコリと松倉さんが頭を下げた

「…まあ。松倉こそなんで
ごめんね、Aちゃん。メンバーの…」

松倉さん、ってメンバーの松倉海斗さんかと
雑誌で見た顔を思い浮かべながら私も頭を下げた

「俺ここの常連だし？
てか次の仕事場一緒行こうよ」

「いいけど」

なんで宮近さん、
ちょっと不機嫌ぽくなっちゃったんだろう

私との時間が終わったから、なんて

あまりにも都合が良すぎるだろうか

そもそも
こんなところにアイドル2人といていいの？

平日の昼間でほとんど人がいないとはいえ
誰が来るかわからない

「…あの、私そろそろ帰りますね！」

荷物を急いでまとめて立ち上がる

「Aちゃん！」

宮近さんに名前を呼ばれ振り返ると
四角いカードケースを手渡された

「学生証、落ちたよ」

「あ、ありがとうござ…」

受け取ろうとすると
そのまま手首を掴まれ引き寄せられる

抱きしめられる直前のような行動に思わず固まった

「…うしろ、人通りそうだったから。
また連絡するね」

「ありがとうございます、」

飲み物を買いに行っていた松倉さんにも
すれ違いざまに頭を下げてブックカフェを出る

さっきといい、今といい

距離が近いだけでこんなに鼓動が速くなるなんて

「…勘弁してよ、私」

職業が職業だから本気になるだけ辛いのに

奥の方に座っているから
見えないって分かっているのに

窓から宮近さんたちがいるであろう方向を覗きながらぽつりと呟いた