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森から戻ったわたしを出迎えたのは、眠そうな目をした萱島さんだった。
先程遭遇した人物について念の為報告をしておいた方がよいのか。
しかし今彼にその事を伝えてしまったら、きっと躍起になってその人物を捕獲しようとするに違いない。
黙っていた方がいいと判断したわたしは、焚き火を眺めながら目を擦る彼の前を通り過ぎようとした。
「東雲さんってさ、ずっと動いてるけど大丈夫なの?」
「.....ええ、わりと平気です。」
「すごいね。」
はは、と朗らかに笑う萱島さん。
彼の横顔からは疲労の色が伺える。
わたしはなんと返答をしようか考えながら、焚き火の明かりに照らされ影を落とす彼の長いまつ毛をじっと見つめた。
「.....あ。」
「あ?」
「それ、どうした?」
萱島さんがこちらに視線を送りつつ自分の首筋を指差す。
はっとして同じ場所を指先で触れると、血液が線のように凝固していた。
「あ.....さっき小枝にひっかけちゃって.....」
「ちょっと見せて。」
優しく手を引かれ、萱島さんの隣に腰を下ろす。
不意に近いてきた端正な顔に、心臓がどきりと音を立てる。
「うん.....深い傷じゃないみたいだけど。東雲さんってさあ、結構お転婆娘じゃない?」
「.....ふっ、娘って.....わたしもう30近いのに.....」
萱島さんの発言に、思わず吹き出してしまう。
つられて笑った彼がふんと鼻を鳴らした。
「あんまり1人で動き回っちゃだめだよ東雲さん。可愛いんだから誰かに連れ去られちゃうよ。」
「えっ.....」
再び感じる胸の高鳴り。
これは、どっちの意味なのだろう。
森で誰かに会ったことを悟られた気がしたから?
それとも、彼に褒められて嬉しかったから?
思考が停止したわたしは、ただただ萱島さんの目を見つめていた。
「.....ちょっとそんなに見つめないでよ。ドキドキするじゃん。」
彼の言葉は本気なのか、はたまたおどけているだけなのか。
そうだ、きっとこれは彼なりのコミュニケーションなのだろう。
結論を出したわたしは荷物を下ろし、それを膝に抱える体勢で仮眠をとることにした。
「少し寝ますね。おやすみなさい。」
「え、待って怒った?ごめんごめん!」
「ふふ、怒ってませんよ。流石にわたしも少し疲れたみたいです。」
安心した様子の萱島さんを視界におさめ、ゆっくりと目を閉じる。
目を覚ましたときにも隣に彼がいてくれたらいいなと、淡い希望を抱きながら、わたしは短い眠りについた。
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おこめ(プロフ) - 彩海さん» 彩海さん、今際に引き続きありがとうございます🥹色んな作品読んでくださって本当に嬉しいです!お褒めの言葉、更新のモチベーションにさせていただきますね💐続編もどうぞよろしくお願いいたします! (5月24日 9時) (レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
彩海(プロフ) - おこめさん!こっそり読ませてもらっていました!一話一話読み応えがあってとっても面白いです😌表現が繊細なのにすごく読みやすくて流石の文才だなあといつも感動してます!続編楽しみにしてます!頑張って下さい💘 (5月24日 8時) (レス) @page46 id: 3fb936871f (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - くまさん» くまさん、またコメントくださってとても嬉しいです☺️5話ドキドキの展開でしたね.....!!まだ落ちについて明言はできませんが、これから主人公と萱島さんの関係がどんどん深まっていきますので是非楽しみにしていて下さい! (5月22日 10時) (レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
くま - いつも素敵なお話ありがとうございます!ドラマの展開がアツすぎて!こちらのお話がどうなっていくのか楽しみです!!夢主ちゃん、萱島さんと結ばれてほしいです〜🥺 (5月21日 13時) (レス) id: 04b5add429 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - ゆんさん» ゆんさん、コメントありがとうございます!お褒めいただきとても嬉しいです☺️頑張って更新してまいりますのでこれからもよろしくお願いいたします! (5月17日 20時) (レス) @page36 id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おこめ | 作成日時:2023年4月22日 16時