30 ページ31
.
小森さんに連れられてやってきた男性は飲料補充の仕事をしている、いわゆるベンダーさんだった。
水やお茶を運搬している途中でこの世界にやってきたらしい。
そして肝心の飲料はカートごとどこかへ消えてしまったとのことで。
物騒な物言いだが、彼いわく盗まれたそうだ。
水が飲みたい。
喉が渇いて死にそう。
乗客の全員が水分を欲し、切望している。
犯人探しが始まり、誰が盗っただの、この中にいるだろうだの、喧嘩腰になる者が出てきた。
一気に騒がしくなる車内。
白浜さんが乗客たちをなだめるべく呼びかけるが、残念なことに騒ぎはおさまらない。
「はーい知ってまーす。」
萱島さんの言葉に、一瞬車内が静かになった。
「俺見たよ。木の根っこんとこに置いてあった。めっちゃ遠いけど。」
乗客全員が萱島さんを見る。
発見した水はまだ沢山残っているそうだ。
多分彼はそのことを隠していた訳ではなく、本当に忘れていたのだろう。
「今すぐ場所を.....」
「じゃあ土下座しろよ！！」
唐突な大声に、思わず肩がびくりとはねる。
耳元で怒鳴られるのは心臓によろしくない。
どうしてしまったのかと萱島さんの顔を覗けば、彼はバツの悪そうな表情で咳払いをしていた。
「.....なんてね。教えてもいいけどさ、どうするの？みんなで仲良く分ける？それとも配給制？」
「なるべく長くもつように、みんなで平等に分けよう。」
白浜さんの提案に賛同する意見が多数。
そうするのが安牌だろう。
しかし、萱島さんの考えは違ったようで。
管理は当番制にすると言った白浜さんに向かって、アホかと吐き捨てた。
「取られるだろ！暴動起きるぞ。」
「それはお互い信頼し合う.....」
「はっ？信頼？これで？！」
「そうじゃなきゃ助からないだろ！！」
疑わなきゃ助からないと主張する萱島さん。
まさに一触即発の雰囲気だ。
睨み合う2人の顔を交互に見比べ、この場をどうおさめればいいか考えあぐねていると、電車の奥から控えめな声が聞こえてきた。
「あの.....水があるならください.....体調の悪い人がいるの。」
切実な願いを口にしたのは年配女性グループの1人。
わたしはすかさず、息苦しそうに呼吸をする女性のもとへと駆け寄った。
「.....これ、良かったら飲んでください。」
「いいの.....？ありがとう。」
ウォーターボトルを差し出す。
安堵の表情を浮かべた女性を見て、わたしはかつての感情を、人を助ける喜びを思い出した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 714人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おこめ(プロフ) - 彩海さん» 彩海さん、今際に引き続きありがとうございます🥹色んな作品読んでくださって本当に嬉しいです！お褒めの言葉、更新のモチベーションにさせていただきますね💐続編もどうぞよろしくお願いいたします！ (5月24日 9時) (
レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
彩海(プロフ) - おこめさん！こっそり読ませてもらっていました！一話一話読み応えがあってとっても面白いです😌表現が繊細なのにすごく読みやすくて流石の文才だなあといつも感動してます！続編楽しみにしてます！頑張って下さい💘 (5月24日 8時) (レス) @page46 id: 3fb936871f (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - くまさん» くまさん、またコメントくださってとても嬉しいです☺️5話ドキドキの展開でしたね.....！！まだ落ちについて明言はできませんが、これから主人公と萱島さんの関係がどんどん深まっていきますので是非楽しみにしていて下さい！ (5月22日 10時) (レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
くま - いつも素敵なお話ありがとうございます！ドラマの展開がアツすぎて！こちらのお話がどうなっていくのか楽しみです！！夢主ちゃん、萱島さんと結ばれてほしいです〜🥺 (5月21日 13時) (レス) id: 04b5add429 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - ゆんさん» ゆんさん、コメントありがとうございます！お褒めいただきとても嬉しいです☺️頑張って更新してまいりますのでこれからもよろしくお願いいたします！ (5月17日 20時) (レス) @page36 id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おこめ | 作成日時：2023年4月22日 16時
