随分と身勝手な不幸だ ページ18
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「俺この映画嫌い」
「え、なんで？面白いのに」
「救いがないじゃん〜」
背中に感じる体温に微睡むように目を閉じる。彼の声は耳障りがよくて、ひどく落ち着く。会社にいるとき、友達と話しているとき、透き通るように快活に響くこの声が、私と二人っきりになると、ほんの少しだけ低くなる。
「眠い？」
「うん……でも寝たくない」
「寝たい時に寝るのが、一番幸せだよ」
顔を少しだけ上に向けると、額に唇を落とされた。暫しの静寂の後、どちらともなく笑い出して、そのまま勢いよく覆い被さられる。彼の首に笑いながら腕を回すと、貪るように舌を絡めた。
あなたは幸せなのか
これが、仮初めの愛だとしても
早いもんで、ジョンデくんに世にも恐ろしいほど真っ直ぐな告白をされてから、もう半年が経つ。
私は少しジョンデくんを避けるようになって、プロジェクトが無事成功した直後に、体調を崩したらしいとの噂を耳にし、『これでしばらく顔を合わせなくて済む』と息を吐いたのが昨日のことのようだ。
罠はかけられていた。蜘蛛の巣は足元にしっかりと入念に張られていたのだ。
『助けて』
……そんな呪いの言葉で、ジョンデくんは私をいとも簡単に縛り付けた。衰弱しきった彼と、無造作に捨てられたゴミ、空きカン、カップラーメンの容器、散らばった着替え。私は一気に彼を"放って置けなくなった"。私の作った粥を『世界一美味しい』と涙した彼を見て、私は同情してしまったのだ。
ああ、この人私と一緒だ。ずっと一人なんだなぁ、って。誰も信用できずにここまで来たんだなぁ、って。強固に閉じていたはずの心の扉を容易く開いてしまったのだ。
『捕まえた』
……そんな彼の声が聞こえるようだった。
いつの間にか、お互いの家に入り浸るようになり、同じ映画を見たり、同じ本を読んだり、同じ料理を食べて、同じ布団で寝て……違和感だらけの幸せがそこにあった。何から何まで『嘘』で塗り固められた日常を手に入れた。
彼は言った。
「Aさんがそれで気がすむなら、俺のことを"あの人の代わり"にすればいい。でも覚えておいて。貴女はもう"あの人"のものにはなれないし、貴女の身体は俺のものなんだって」
赤子のように、私の指をぎゅっと掴んだ彼を見て私は気づいたのだ。
彼は私を逃がすつもりなど毛頭なくて、
私は彼を愛していないのに、彼に頼られたくて必死なのだと……
これが、不幸だと嘆かずに何という？
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さえ(プロフ) - カエルさんの言葉選びとか文章体がすごく好きです。引き込まれます。 (2017年6月3日 6時) (
レス) id: 463e3f37d7 (このIDを非表示/違反報告)
pumpkin(プロフ) - 毎日更新楽しみにしてました！綺麗事じゃ無いロマンチックな世界観がすごく好きでした！また期待してます！！！素敵な作品ありがとうございました！ (2017年4月3日 15時) (レス) id: 8f6e7b779b (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - ツイッターもフォローしてます！カエルさんのツイッターでの欲望丸出し！な文章も大好きですが、しっかり練りこまれた占ツクでのお話も大好きです！カエルさんの書くジョンデがとてもかわいくて大好きです！また占ツクでもジョンデ連載ぜひしてください(*^^*) (2017年4月3日 2時) (レス) id: fd832b5a03 (このIDを非表示/違反報告)
カエル(プロフ) - つかるんさん» ありがとうございます〜！！（ ; ; ）そのお言葉を励みに更新ドシドシ頑張らせていただきます！！（ ; ; ） (2017年3月27日 9時) (レス) id: d32f1fae21 (このIDを非表示/違反報告)
カエル(プロフ) - pumpkinさん» ありがとうございます（ ; ; ）勿体無いお言葉でございます…！（ ; ; ） (2017年3月27日 9時) (レス) id: d32f1fae21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おたまじゃくし | 作成日時：2017年3月24日 13時
