Lovely Summer！2(JW赤緑) (ページ5)

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肩が触れるくらいの近い距離。2人きりの場でこの距離になることはあれど、人の目がある場では友人としての距離を保ってきた。人前でここまで近づくのは、傘の中だけだ。
｢なあ｣
｢んー？｣
俺より少し上にある顔にむかって声をかければすぐに返事が帰ってきて、ばちんと目が合う。垂れた瞳はまっすぐに俺を見ている。子犬みたいに純粋な目で見つめられると、言葉がつっかえてしまって上手く声がでなかった。湿気にむせたふりをして咳を理由に視線を逸らせば途端に息がしやすくなって、ふぅと深呼吸して続ける。
｢しげさあ、なんでわざと傘忘れるん？｣
｢いやわざとちゃうけど｣
｢もうええってそれは。バレてんねんからそろそろ観念しい｣
急に俯いて黙り込んだしげがどんな顔をしているのか気になって、いつもしげにやられるみたいに覗き込んでみる。こっちを見る様子はないから前に視線を戻した。
地面を睨みつけたまま、むすと拗ねた顔で答えた。
｢やって神ちゃん、俺が傘もってたら自分の使えって言うやんか｣
｢当たり前やろ？なんで狭い傘ん中に男2人で入らなあかんねん｣
何を当たり前なことを。1本を2人で使うよりそれぞれ1本ずつ使った方が確実に濡れないし狭くないし、歩きやすい。
信号待ちで足が止まる。ぱしゃぱしゃと雨が地面を打つ音だけが響き、水たまりに波紋が広がった。
何か考えているような素振りで唸ったかと思えばまあええかと小さく呟いて、独り言のようなテンションで話し始める。
｢神ちゃんはさ、外ではくっついたりするなって怒るけど、傘ん中やったら怒らへんやん。俺はくっつきたいから、雨の日くらいはええかなって思っとったんやけど｣
どうやら言葉を選んでいたらしい。俺が怒ると思ったのか、恐る恐るといったふうにこちらを伺って自嘲気味に笑った。
｢ごめんな、次からは持ってくるわ｣
ぎこちない笑顔が目に焼き付いて離れない。こんなに想ってくれているのに、恋人としてその気持ちに応えないのは如何なものか。酷い人だねと天使が囁いた。
｢傘もってても、たまになら相合傘したるから｣
俺の言葉に嬉しそうにカラッと笑う。この笑顔なら雨雲も吹き飛ばせそうだと思いついて、すぐに首を振った。やっぱりまだ雨がいい。なんて言ったら、しげは笑うだろうか。