＊ ページ21
*
彼がいきなり手を離したかと思えば、パチン、と小さな音が私の耳に届く。その音が聞こえた瞬間、眩いほどの光が目に入ってきた。
｢ひゃ、あ、明る、｣
｢そりゃ電気つけたら明るくなるだろ｣
そう言って、彼は私の方なんて見向きもせず、キッチンに立った。
偏見として言うのならば、彼が料理できるとは到底思えない私は、少し心配になったが、その心配は無意味だったらしい。
ことことと何かを煮つめる音が聞こえ始めれば、コンソメのいい香りがこちらまでただよってきた。
｢どうせまともに飯も食ってねぇんだろ。ちったぁ体力つけろ｣
彼はそれだけ私に投げかけると、どぼどぼと乱雑に切られた野菜や肉をそのスープに入れていく。そうすれば、ふんわりとした香りに色がつき、自然と口に唾液が溢れた。
｢俺特製のコンソメスープ！見た目はあれだが味は保証するよ｣
ことりと優しい手つきで目の前に置かれたお皿には、湯気のたったスープが顔を覗かせている。
どぎまぎとする気持ちを抑えながら、私は彼の手からスプーンを受け取った。
スプーンで1口分すくえば、スープはキラキラと光ったように見える。それをゆっくり口に含んだ。
｢…！…お、おいしい｣
｢だろ？いっぱいあるからたくさん食えよ。｣
そう言うと、彼は私の頭を優しく撫でた。……彼のこんな顔、初めて見た。
いつもは彼の必死になった顔しか見てなかったから、こんな優しそうな顔も、できたんだ。
ふと、私の胸の中で、昔の夢が芽をだした。ただただ幸せを求めていた、あの時の、あの夢。それが彼の笑顔を見た時、心の中で大きく芽生えていたのだ。
｢……すき…｣
ふと口にした言葉に自分でも驚いて、すかさず口を抑えた。
彼は驚いたように目を見開き、フリーズしている。
｢ちっ、ちが…！｣
焦ってそう声を出した時、彼はにぱ！とまた大きく笑っていた。
｢そうか！俺のスープそんなに気に入ってくれたんだな！またいつでも作ってやるから、Aも食堂でみんなと飯食おうぜ。｣
そう優しい瞳で言う彼は、また私の頭を小さく撫でた。
気づけばスープがなくなっていて、彼とまた離れなきゃいけない、そう感じとった。ふと、私は彼の服の裾を握る。自分でも、どうしてこんなことをしたのか分からない。
｢？…どうかしたか？｣
｢……また、また作って。｣
か細くそういえば、彼は優しく目を細める。
｢…いつでも作ってやる｣
ねぇ、昔の私。また叶いそうにもない夢を見てもいいかしら？
**
終わり
ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)
←｢温もりを君に｣..傭兵
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆー - トレイシーの夢も見てみたいです！ (11月21日 17時) (
レス) id: 1c487fdcda (このIDを非表示/違反報告)
mimimi(プロフ) - setuna7014さん» お褒めのお言葉ありがとうございます。そしてリクエスト、ありがとうございます！お時間はかかってしまうと思われますが頑張って書いてみますので、よろしくお願いします。 (2019年8月11日 18時) (レス) id: cc984b1207 (このIDを非表示/違反報告)
setuna7014(プロフ) - 新しいナワーブ君のスープのお話、とても良かったです。よければ、イライ君とナワーブ君に取り合いされるものが見てみたいです、 (2019年8月11日 3時) (レス) id: 9c6758aed7 (このIDを非表示/違反報告)
mimimi(プロフ) - こんにゃくさん» はじめまして。そう言ってくださってとても嬉しいです。これからも頑張って更新しますので、またよければコメント等してください。待っています！ (2019年7月10日 3時) (レス) id: cc984b1207 (このIDを非表示/違反報告)
こんにゃく - はじめまして。私は最近このゲームを始めましたが、とても素敵な短編集だと思います！穏やかな言葉と滑らかな台詞で心臓を撃ち抜かれたように感じました。とても大好きです！ (2019年7月9日 20時) (レス) id: dbb4095b61 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mimimi | 作成日時：2019年7月2日 23時
