短編-35 (ページ7)

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ひとり残された俺の後ろから、静かにこれまでのやり取りを見ていた薮と高木が顔を出す。

「また大ちゃんの事、揶揄ってんのかよ〜。伊野尾も懲りないなあ。」
「相手が有岡くんと言えど、程々にしなね。」
「…いいんだよ、大ちゃんが許してくれる範囲でやってるから。」

そうは言ったものの、さっきみたいに調子に乗りすぎて、大ちゃんに嫌われるんじゃないかとヒヤヒヤする事が多々ある。

何でもかんでも大ちゃんが許してくれる、なんて事あるはずないのに。許してくれる気がしてつい、気が大きくなる。

大ちゃんに嫌われたら生きていけないくせに。

なんだか綱渡りみたいな事してるなぁ、なんて我ながら呑気に考えたりもして。そんな俺を一瞥した高木が、去り際に「伊野尾くんて本当、有岡くんの事好きだよね。」と声をかけた。

うん、好き。

薮に「鈍感な大ちゃんには気づけない片想い」なんて言われるけれど、彼はいつ気づくだろう。
俺は、いつまでこの気持ちをくすぶらせているのだろう。

もし、この気持ちが成就したら、その先にどんな世界が待っているのだろうか。

気づいて欲しいような、気づいて欲しくないような気持ちの狭間で遠くに行ってしまった彼を見つめる。

「いのちゃーん！早く降りておいでよー！」

さっきまでの怪訝そうな顔つきはなく、とびきりの笑顔で大ちゃんが俺を呼ぶ。他のメンバーもつられて俺に声をかけた。薄暗いバスの中、もつれたコートの袖に腕を通しながらサイドステップに足をかけ、外へ出る。

微かに積もった雪は、暖かな太陽の光に照らされて眩く輝いていた。